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第16回:髙橋 彩 副理事

大学は、かけがえのない知の交流点

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 プールではしゃぐ子どもたちの声、たすき掛けにした虫かごにはセミ、砂糖漬けにしたレモン、どこからともなく聞こえる風鈴の音、北九州で過ごした子ども時代は私の原風景の一つです。比較的暑さに強いのも、この地域出身のせいなのかもしれません。祭りの時期になると山車が出て、遠くからそれを引くかけ声が聞こえてきます。どこかウキウキ、ソワソワ。山車を引くのに参加した子どもたちは、終点までたどり着くと、ビニール袋いっぱいに詰まったお菓子をもらえます。そのご褒美の嬉しかったこと。

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 私のもう一つの原風景は、大学院生時代のイギリスにあります。女性史の修士コースの開始時、渡されたリーディングリストに目の前が真っ暗になりました。当時の私には信じられないほど膨大なリスト!来る日も来る日も、大英図書館や大学の大きな図書館に籠って本を読みました。授業はいつもディスカッション。先生を囲んで学術的な対話がなされます。ひとしきり議論した後の、一杯のティーのおいしさは今でも忘れられません。

 ロンドン市内のとある研究所で開催される研究セミナーにときどき足を運びました。いかにも年代物の重い木の扉をそっと開けると、天井まで届くような書架に古びた本がぎっしりと詰まった部屋が続いています。そこには、学生から著名な研究者まで、ひしめくように座っていました。何を話していたかはよく覚えていないのですが、当日の報告者を中心にあれやこれやと意見が交わされ、知的な刺激をもらって、頭がいっぱいいっぱいになって家路に着いたことを思い出します。

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 ところで、歴史研究では、当時の図書や新聞、雑誌、議事録、手紙やメモまで、残された文書をよく読みます。文書は、時として歴史的に縁のある場所に大切に保管されていて、その場所で文字を追っていると、まるでタイムスリップしたかのように、当時の風景が目の前に浮かび上がってくることがあります。いま思えば、イギリスでは、大学と書物、史料、先生と同分野の人々の中にドップリと浸って、時空を越える知に触れる体験をさせてもらいました。

 2003年3月、まだ雪深い北海道大学に着任しました。その時私は妊娠8ヶ月、着任後1ヶ月程で産休に入ることになっていました。20年程前、まだ今のような妊娠・出産をとりまく社会環境とは異なる時代です。着任後、フレンドリーな人々に温かく迎えられました。お腹の大きな私が少しでもモノを持っていると、「私が持ちます」と言って、ヒョイッと持ってくださいます。「なんていい人たちに、職場に恵まれたんだろう!」私がここで経験しているように、働く人も学生も、愉しく仕事をし、学問ができる環境を作りたい。その想いがずっと私の仕事人生の中心にあります。

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 北大で携わることになった留学生教育・支援の分野では、国境を越える教育交流の行く末を学術的かつ実務的に考える人々と出会いました。この分野の国際的なカンファレンスに出席すると、大学の要職者から、国際教育や高等教育分野の先端研究者、現場で学生交流・支援の実務に携わる教員・専門職、民間企業の方々まで、多種多様な人々が熱く議論を交わしていました。話題も、学生のメンタルヘルスから大学の世界ランキング、大学組織の国際化まで実に幅広く、それぞれの立場から、プロフェッショナルとして語り合います。国際的な集まりでも、日常の業務の中でも、大学がいかに多様な立場、専門知識・経験、学術的知見を持つ人々で形づくられているか、それがなくては成り立たない組織であるかを実感しました。この感覚は、現実の大学運営を考える際、いつも私の傍にあります。

 悠久の学問の世界と目まぐるしく変化する現実の世界。大学教育はその微妙な接点の上にあるのだと思います。時空を超えた思考をめぐらせながら、現実の課題に取り組み、目の前にいる人々と、お互いを尊重しながら、対話する。国や地域、言語、経験、関心事や選好など、多様なバックグラウンドを持った人々が集い、知識だけでなく、感覚や経験、視点等を活かしながら、何かを創り出す。大学はそのように、知的で、平和で、ワクワクする空間であり続けて欲しいと思います。

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 国際教育担当の副理事として、中期目標・中期計画や国際戦略など大学の方針の下で、関係の皆様と国際教育交流がよりよく展開できるよう検討するとともに、プログラムの運営にも携わっています。世界から様々な人々が、学問の追及のために集い、交わり、また散らばってゆく。大学は知の交流点であるとともに、人類と地球、宇宙の未来をともに考えることのできる、かけがえのない場だと信じています。北海道大学がそのような場であり続けられるよう、少しでも貢献できればと思います。どうかよろしくお願い申し上げます。

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(2022年7月)

【撮影場所】
1枚目:学生交流ステーション前
2、3、5、6枚目:学生交流ステーション 中庭
4枚目:学生交流ステーション ラウンジ