litterae_vol.69
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Experimental Japanと教育が行われている。国内外から多くの研究者や学生が訪れ、利用者数は年間延べ3千人にもおよぶという。仲岡教授は、「臨海実験所でありながら、奥には森林や川、湖、湿原などが広がっていますので、森林や陸水の研究者と共同で、河川を通じた陸からの物質流入が沿岸域にどのような影響を与えるかなどの研究も行っています。ある意味、海以外の研究も盛んというのが大きな特徴だと思っています」と語る。また近年は、気候変動やマイクロプラスチック、赤潮などの環境課題や、人口減少に伴う地域社会の持続可能性など、SDGsに関連した活動も増えているそうだ。厚岸臨海実験所では、本学のみならず国内外の学生等を対象に年間10を超える実習が実施される。6月下旬には、理学部生物科学科の3年生を対象とした臨海実習が行われた。定員30名の「みさご丸」に16名の学生達が乗り込み、厚岸港から大海原へ出航。海ではグループに分かれ、海水や植物プランクトンの採取、海洋環境の観測を行った。船酔いする学生の姿も見られたが、なんとか全員が作業をこなしていたようだ。午後からは、採取してきた海水の分析、顕微鏡でのプランクトンの観察などを実習室で行った。一連の体験を通じて、海洋生態系についての理解Network、アマモ場実験ネットを深め、考察する力を養うことが実習の狙いだという。参加した学生は、「実際に船での調査観測を体験することができて、想像以上に楽しかったです。これまで海について詳しく学んだことがなかったので、この実習で学ぶ全てのことが新鮮で興味深かったです」と感想を語った。近年、大気中CO2の新たな吸収源として注目されている「ブルーカーボン(※2)」。特にコンブやアマモなどの藻場は、高い炭素固定能をもつため、気候変動の緩和に向けて、その保全や再生が叫ばれている。本実験所では、太平洋、大西洋の北半球温帯域から亜寒帯域にかけて広く分布する海草アマモを対象に、藻場とそこに生息する生物達や環境との関係について、長年観測を続けている。またZEN(Zostera ワーク)をはじめとして、数々の国際プロジェクトに参画し、地球規模での比較解析を行っている。「国際的な研究ネットワークにデータを提供し、世界の中での共通性、特殊性を明らかにすることは重要です。一方で、地域の課題を解決する応用的な研究や、個別の問題点に対応した研究というのも大切で、この実験所には、グローバル・ローカル両方に対応できる研究環境が整っていると思います」と話す仲岡教授。最近では、ソニーグループ株式会社とも連携し、最先端のセンサーや通信技術を活用して、より精度の高い海中調査システムの開発にも取り組んでいる。多岐にわたる研究と教育活動に※1:DOCOMOMOの記録と保全を目的とする国際学術組織ドコモモの日本支部。※2:ブルーカーボン離・蓄積される炭素。海洋生態系によって海中に蓄積される炭素固定能の事を指す場合もある。精力的に取り組む仲岡教授。「これまでの研究で、藻場がもつ役割や機能がわかってきたので、次は地域の人達がそういった生態系を残すことで地球環境の維持に貢献し、さらには地域の発展につなげられるような仕組みづくりにも取り組みたいです。そうしたことを実現するためには、科学者だけではなく、様々な関係者が議論していく必要があると思っています。また、そういったことに将来取り組んでいく学生を育てることも重要だと考えています」と、今後の展望を語る。きた自然環境と歴史的建造物、そして蓄積された経験と観測データ。厚岸臨海実験所では、こうした資源を活かして最先端の研究成果を世界に発信するとともに、様々な現場体験を通じて次世代に海の生態環境を伝えている。近代建築海洋生態系に隔船上での調査を体験「海洋生態学実習」国内外の研究機関と連携し、世界の海洋問題に挑む受け継がれてきたものを次世代へ11  Litterae Populi Vol.69「海洋生態学実習」の参加学生達。90年以上にわたり受け継がれて厚岸臨海実験所長/北方生物圏フィールド科学センター 仲岡教授。

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