ど、専門領域の枠にとらわれずに取り組むべき課題がたくさんある。総合大学としての強みを活かし、認知症研究拠点では、「認知症の予防・診断・治療技術開発」「共生コミュニティの創造」「デジタル化普及とデジタルデバイドの解消」の3つを軸とし、認知症と共生できる社会の実現を目指していく。本拠点には、医学研究院、保健科学研究院を中心に大学病院、遺伝子病制御研究所、先端生命科学研究院、情報科学研究院など、複数の部局等の研究者が参画している。拠点代表を務める矢部一郎教授(医学研究院神経内科学教室)は、「これまでは横のつながりが薄かったので、連携を通してより大きな研究成果を出していきたい」と抱負を語る。認知症とは、認知機能の低下による症状を表す用語であり、特定の病気を指すものではない。実は認知症と診断されても、その原因となっている病気を特定することは極めて難しく、それが治療薬開発の関門にを解決する糸口にすべく、矢部教授が力を入れているのが北海道での「ブレインバンク」の確立だ。ブレインバンクとは、認知症患者の脳や髄液、血液などの生体試料を収集・蓄積し、診断や治療法の開発に役立てていくものである。東京周辺地域でのブレインバンクはあるが、北海道にはまだない。ブレインバンクを充実させることで遺伝子やタなっている。この問題ンパク質などの解析を行い、認知症の原因となっている病気の診断に役立つ成分を明らかにすることで、治療薬開発につなげることができるのだ。現在、先端生命科学研究院や遺伝子病制御研究所ではこうした生体試料を使いながら、認知症の早期発見や原因となる病気の診断、重症度の評価に利用できるバイオマーカーの開発を進めている。コロナ禍において様々な分野で遠隔システムの重要性は高まったが、コロナ禍に関わらず、認知症対策においては遠隔システムが鍵となる可能性がある。認知症の治療には、他の病気と同じく早期発見が重要だが、北海道では専門家の診察を簡単に受けられない地域が多い。拠点コーディネーターを務める大槻美佳准教授(保健科学研究院高次脳機能創発分野)は、認知症の兆候の早期発見につなげるべく、高齢者の日常をプライバシーに配慮しながら遠隔でモニターし、動きや動線の変化を観察、そのデータを収集・分析している。「現在は札幌市の五輪団地に住む高齢者に協力してもらいデータを集めていますが、将来はもっと大規模にデータを集め、その分析結果を地域に還元し、認知症に取り組む地域ネットワークをつくりたいです」と、意気込みを語る。本拠点ではこの他、新しいMRI技術を用いた画像診断法の開発、認知症の早期症状に関係するといわれている脳の炎症を抑える研究、認知症の原因となる遺伝子研究、予防に役立ちそうな食品の研究など、多くのプロジェクトを同時進行させている。こうした研究を通して、社会がどのように認知症と向き合えばよいかを多持ってもらい、研究の仲間、ある方面から考えていく。「認知症患者さんは、常にケアが必要な方からケアを必要としない方まで幅広いですが、それぞれの段階でケアが行き届き、必要な時に助け合えるようなシームレスな仕組みの構築を目指しています」と大槻准教授。また、矢部教授は「多くの方に認知症に興味をいは認知症を支える仲間になっていただけたら」と思いを語る。誰もが無関係ではいられない認知症に共に立ち向かうことで、認知症と共生できる希望ある社会の実現を目指す。認知症との共生11 Litterae Populi Vol.70医学研究院神経内科学教室での実験の様子。上:遠隔で認知機能の評価を行っている。下:携帯電話を用いた脳トレの実施方法について説明している。
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