litterae_vol.70
21/32

Opticsよって判断されている。検査の結血液検査や骨髄検査などの結果に果、使用した薬剤が無効であったことが判明した場合、他の薬剤に切り替える必要が生じることに加えて、治療中に病状が更に悪化する懸念もある。この課題の解決に向け、蛍光バイオイメージング技術を応用した慢性骨髄性白血病の治療前薬効診断法の開発とその社会実装に取り組んでいるのが、大学院医学研究院の大場雄介教授と天野麻穂講師だ。本学医学部を卒業後、国立国際医療センター研究所、大阪大学及び東京大学を経て、2012年から本学大学院医学研究科時間生理学分野(現大学院医学研究院細胞生理学教室)において医学生物学の研究に取り組んできた大場教授。研究テーマのひとつとして、蛍光バイオイメージングに着目し、臨床検査への応用を目指した研究を展開してきた。蛍光バイオイメージングとは、生きた細胞内でのタンパク質の相互作用や構造変化などについて、蛍光タンパク質を用いて視覚化することで、高感度かつ定量的に測定する技術のことである。大場教授は、下村脩博士が2008年にノーベル化学賞を受賞した蛍光タンパク質による蛍光バイオイメージングを慢性骨髄性白血病の臨床検査技術に応用した。そして、慢性骨髄性白血病の分子標的治療薬の薬効評価や治療効果の予測が可能な光診断薬「を開発し、分子標的治療薬が慢性骨髄性白血病細胞にPickles」有効かどうかを治療前に判定することを可能にしたのだ。患者から採取したがん細胞に治療薬とともに投与すると、薬が効く細胞は青色、効かない細胞は黄色に見える。また、がん細胞の採取から薬効判定までの期間は3日程度と、従来よりも格段に早く薬剤の有効性を確認することができる。治療薬の効果や副作用が一目瞭然の画期的な技術だが、前例がない技術に臨床検査会社は慎重な姿勢を示していたという。そこで、大場教授が開発したこの光診断薬の社会実装を目指し、北大発スタートアップのHILO(ヒーロー)株式会社を設立した知ったのだという。「素晴らしいのが天野講師。当時、URAとして医療系の研究シーズを調べているなかで、この光診断薬の研究を研究シーズなのに事業化に向けた検討が進んでいないことを不思議に思い、大場教授のもとに話を聞きに行きました。すると、社会実装のためには会社を設立しなければならないが、社長を務める人材がいないという状況に置かれていることがわかり、直感的に挑戦してみたいと思ったのです」と当時を振り返る。2021年8月に会社を設立し、その代表取締役に就任。現在は大学講師として、また、企業経営者として多忙な日々Illumnationを過ごしている。社名の「HILO」は、Horizon平線を照らす光学研究所)の頭文字。「私たちは、イメージング技術で患者さま一人一人の未来に光を当て、安心して治療に挑むことができる社会を目指します」と話す大場教授と天野講師。5年以内の薬事承認を目指し、慢性骨髄性白血病患者の至適治療の選択によるテーラーメイド医療の実現に向けて歩み続ける。Lab(水社名「HILO」に込められた思いi21  Litterae Populi Vol.70楽器をいじるのが趣味という大場教授。このほか、教室内のスタッフからは、「料理上手」「大工仕事が得意」といった声も聞かれる。また、天野講師は、休日や就寝前に仕事と関係のない本を読むのが楽しみだという。光診断薬「Pickles」による薬効判定。CMLは慢性骨髄性白血病、FRETは蛍光バイオイメージング技術を指す。HILOラボ内の様子。本学北キャンパスに隣接するインキュベーション施設「北大ビジネス・スプリング」内にあるHILO社ラボ。研究員2名が滞在し、共同研究を進めながら技術開発に励んでいる。

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る