象のありのままの自然な行動をひたすら観察・記録する自然観察法と、実験操作(刺激呈示)をしてその操作に対する動物の自然な反応を観察する実験的観察法がある。後者は、工夫次第でより多様な動物のこころを詳細に分析できる実験的分析法である。現在、ヒトと遺伝的には離れているものの空間的には近い家畜のウマに着目し、ウマ同士、またウマとヒトの「絆」形成を支える心理とその進化について、それらの方法を組み合わせて比較認知科学を基盤とした研究を展開しているのが、文学研究院の瀧本彩加准教授である。「私が幼少だった頃の話を両親に聞くと、動物園では物凄く長い時間、動物の前でじっと観察している感じだったそうで、弟や妹はすぐ次へ行きたがるのですが、私だけは同じ動物の前からずっと動入ったことで、幼少の頃の動物になったと話す瀧本准教授。比較認なった経緯について次のように語かなかったみたいです。他にも牧場に行きたがるとか、乗馬も弟妹たちは怖がるのに、私だけ一人でポンと馬に乗るっていうような感じで、動物に対する関心が強めの子どもだったようです」と話す和歌山市出身の瀧本准教授。近畿大学附属和歌山高等学校を経て京都大学文学部に進学、入学直後に同大学の馬術部に入部したのだそうだ。「小学生から高校生の頃は、動物に対する興味は薄れていたのですが、大学入学直後に馬術部に対する関心が蘇ってきたのです。馬術部で毎日のようにウマと接する中で、この子たちは一体何を考えているのだろうとか、分かりやすく指示するためにはどのような工夫をすれば良いのだろうか、ということに興味が出てきました」馬術部でウマとより良い関係を築きたいという想いから、動物の心の研究に興味を持つように知科学の研究に取り組むこととる。「私が1年生のとき、比較認知科学の研究室に所属していた馬術部の4年生の先輩がいまして、夏休みなどに馬術部で卒業論文のための研究をしている様子を目にしたことで、このような研究分野があることを知りました。そして、2年生のときに、文学部で動物心理学の比較認知科学の授業をされていた藤田和生先生に出会ったことが、比較認知科学の研究にかかわるきっかけとなりました」藤田教授が担当する比較認知科学の研究室に入った瀧本准教授は、ヒトを含む動物の助け合いの進化の道筋を探るために、ヒトと遺伝的に近い霊長類のフサオマキザルを対象に、同種個体同士の協力行動(報酬分配など)に関する実験に従事した。「動物の心に関心はありつつも、社会の役に立つような仕事をしたかった」と語るが、修士課程1年生の時に、イギリスの動物行動学者のジェーン・グドール氏の講演を聴いて、地域に貢献しながら研究する道もあるということに感銘を受け、研究者の道を選択した。その後、京都大学大学院文学研究科の修士課程及び博士課程を修了し、日本学術振興会特別研究員(PD;東京大学大学院総合文化研究科)を経て、2015年4月に本学大学院文学研究科准教授に着任。現在、行動科学研究室において、協力行動を支える心理メカニズムに関する研究と、伴侶動物(主にウマ)におけるヒトとの絆形成の心理基盤に関する研究を進めている。2018年、瀧本准教授の研究グループは、ウマはヒトの表情からだけでなく、表情と声色を関連づけて感情を読み取っていることを実験的に明らかにした。ヒトの表情をスクリーンに映し出してウマに見せた後、スピーカーからそのヒトの声を流す実験を行った。すると、ウマはヒトの表情と声色が一致していないときにスピーカーの方を素早く長く見た。ヒトの表情と声色が一致していないことにウマは違和感を持ったのだ。古代からヒトと生活をともにしてきたウマは、ヒトをも仲間だと認識し、その表情や声色に反応しているのかもしれない。「ウマが他のウマやヒトとどのようにやりとりをして絆を構築していくのか、その発達過程についても研究を進めています。こころの進化と発達の両方を明らかにしていきたいです」と話す瀧本准教授。一連のウマのこころの研究が、ウマの魅力の普及、ひいてはウマの活躍の場の拡充につながり、北海道和種馬などの日本在来馬の保全や競走馬の引退後のセカンドライフの充実につながることを目指して、北海道に根ざした比較認知科学の研究に取り組み続ける。ウマのこころを解き明かす21 Litterae Populi Vol.71人馬の歩行同期とそのメカニズムを解明するため、画像解析で人馬の歩行をトラッキングした結果を可視化した一場面。(作成:上田江里子)旅行で気分転換! 旅が好きだと話す瀧本准教授。国内旅行はもとより海外旅行の経験も多く、過去にはドイツやイタリア、フィンランドなどにも行ったことがあるとのこと。最近は、札幌近郊の公園や森の散策でリフレッシュしているという。
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