しい生産者も、果汁やワインサンプルを持ち込めばここで調べることが可能だ。センター棟の裏手にある旧昆虫標本室は、ワイン庫として改修された。庫内ワインセラーには、ワインの保存に適した冷水による空調管理が導入され、約1千8百本のワインが貯蔵できる。北海道ワイン教育研究センター長である曾根輝雄教授(農学研究院応用分子微生物学研究室)は、「将来的には、道内ワイナリー商品を長期間預かって価値を高めるワインバンクを行いたいです」と意気込む。ワインづくりには土壌や気候、微生物、マーケティングまで様々な研究課題があるが、多角的な見地からアプローチできるのが総合大学である北大の強みだ。曾根教授は、自身の専門である微生物学に軸足を置きながら、様々な角度からワイン研究に取り組んでいる。微生物学的なアプローチとしては、安定した生産を可能にする技術開発が第一目標だという。ワインは酵母や乳酸菌により発酵させるが、殺菌しないため、もともとブドウに付着していた微生物が最終的な香りなどに影響する。これは、その土地ごとの個性が出るというワインならではの特徴となる一方で、その働きをコントロールできなければ、香りの悪さといった仕上がりの失敗を引き起こす。醸造過程における微生物の種類や働きを解明し、それをコントロールすることで、失敗しないワインづくりの技術を確立したいと曾根教授は話す。500種を超える北海道由来の酵母を集め、その性質解明にも取り組んでおり、こうした研究をより深めるため、試験用醸造免許の取得を2024年度中にも目指す。「健康」という要素も、ワインの特徴のひとつと曾根教授は強調する。カリフォルニア大学デービス校との共同研究では、北海道のワインメーカーでつくった赤ワインを実際に飲んでもらうヒト試験により、一部のワインで血圧が下がるという結果が得られたという。これに限らず、赤ワインの健康作用は広く知られており、体に良いとされる「地中海食」と呼ばれる食スタイルには、オリーブオイルや豆類などに加え、赤ワインが含まれている。曾根教授は、「北海道の食材とワインを組み合わせた『北海道食』ができて、土地ごとの食べ物とワインを組合せた食文化が生まれてくると面白いですね」と語る。ワインは、その土地の気候や風土を反映した地域を象徴する飲み物だと曾根教授はいう。さらに、食とのつながりも深い。ワインと食のペアリングを楽しみに北海道の様々な地域へ足を運んでもらうことは観光を発展させ、仕事の創出につながる。仕事が生まれれば若い人が定着し、地域は活性化されてゆく。こうした食文化の創造と地域振興に寄与するワインの教育研究の拠点として、そしてワインを囲む集いの場として、ワイン教育研究センターは北海道ワイン産業の更なる発展を支えていく。北海道産ワインの価値向上に寄与する研究エルムの森から北海道のワインを育む05 Litterae Populi Vol.72センター長を務める曾根教授。プロモーションホールにて。エルムの森に佇む「ワイン教育研究センター」。2024年春に一般開放が計画されているギャラリースペース。ラボでは、ワインづくりに関する研究に加え、生産者のサポートも行う。
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