litterae_vol.72
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かった。カップなど約60品種の果実の研究札幌から西へ約60㎞離れた余市町にある余市果樹園では、1912年から北大の生物生産研究農場として、リンゴやハスが行われている。ラズベリーは、フランス語では「フランボワーズ」、日本語で「西洋キイチゴ」と呼ばれ、甘酸っぱい風味と豊かな香りで料理に彩りを添える。日本でもケーキやお菓子に使われ親しまれているが、実は9割以上が輸入品だ。ラズベリーの主な原産国はヨーロッパやアメリカで、日本のような高温多湿の気候ではカビや病気で傷みやすい。このため、国内での栽培は難しいというのが「常識」で、ビニールハウスなどの設備投資をすればコストがかさみ、輸入品には太刀打ちできな北方生物圏フィールド科学センターの星野洋一郎教授は、フィールドワーク中に北海道にキイチゴが自生しているのに気付いた。「ラズベリーは日本の市場に普及しているのに、国内の品種改良が進んでいない」と考え、道内で育てやすく味の良い新品種の開発を、2007年から学生とともに始めた。星野教授らは、北海道に自生するキイチゴ5種類と、欧米のラズベリー14種類の特性を調べて掛け合わせ、100通り以上の交配試験に取り組んだ。ラズベリーの花粉を採取し、他品種のつぼみの花弁をそっと開いて、雄しべを取り除いたうえで雌しべに受粉する。その後、他の花粉を受粉しないように花全体に袋をかける。これを学生が根気強く手作業で実施し、実がなると、交配が正確にできたかDNA解析をして確かめ、できあがった果実の収量や大きさ、酸味、糖度、香り成分の一つひとつを解析した。「輸入が9割」の常識に挑む  Litterae Populi Vol.72  08生物生産研究農場で開発された北大ラズベリー。(提供:砂川果樹園)北大ラズベリーの実験の様子。(提供:星野洋一郎教授)北大の生物生産研究農場である余市果樹園で誕生した「北大ラズベリー」は、北大の研究者と学生、そして余市町の農家などがチームとなり、ラズベリーをめぐる「常識」に挑んだ成果だ。第三章 「北大ラズベリー」

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