litterae_vol.75
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ングに使われている。また、スギ・ヒノキの人工林では、間伐する幅を変え、土壌の乾燥度や雨水による土砂移動を比較する研究も行われている。間伐など人の手入れがなく放置された人工林は、樹木が密集して根が発達せず、土砂崩れなどの自然災害が起こりやすい。実際に、平井地区にある人工林周辺で2024年に大規模な地滑りが発生し、和歌山研究林へ向かう国道が今も通行止めになっている。土砂に埋まった区間は車が通れず、研究林に行くには別の道を徒歩で移動しなければならない状態が続いている。岸田林長は、「国内には多くの人工林があり、気候変動の影響で自然災害は身近な危機として迫っています」と話す。和歌山研究林で行われている研究が、国の森林対策や、生態系保全につながる重要な知見となっている。和歌山研究林の大きな特徴の一つは標高差だ。研究林の入り口は標高260m、最高地点の大森山山頂は841mで、敷地内の標高差はおよそ600mにのぼる。30度以上の急傾斜地が7割を占め、山全体を効率よく移動するために「モノレール」が活用されている。急斜面に敷かれた総延長3㎞に及ぶ4本のモノレールが、木々の間を縫って木漏れ日を受けながらゆっくりと登っていく。和歌山研究林の利用者は年間約2000人で、学生や研究者だけでなく、地域の小学生の学びなどにも活用されている。和歌山研究林長の岸田治教授は、「モノレールを使えば、子どもも高齢者も、大森山山頂付近にあるコウヤマキが自生する天然林まで簡単にアクセスできます。100年間手つかずのまま保存された森を、誰もが体感できるというのは、他にはないと思います」と胸を張る。和歌山研究林のもう一つの特徴は、1927年に建てられた木造の庁舎だ。青い屋根と白い壁が映える2階建ての洋館で、2013年には国の登録有形文化財に指定された。講義室や宿泊施設を備えており、研究者や学生の活動拠点となっている。また、庁舎の資料室には、和歌山研究林に生息する虫の標本や動物のはく製のほか、多様な樹木の標本が展示されている。地域の植生を網羅した樹木の葉や枝、樹皮や果実があり、学生の教育実習のほか、小学生や一般向けの体験学習にも利用され、森の知識を未来につなぐ知の拠点となっている。温暖湿潤な気候や急峻な地形は、北海道とは全く異なる森林生態をもたらす。この森では、森林生態学をはじめとする多分野の研究が展開されており、研究林内には様々な観測装置がある。その一つが「ジャングルジム」だ。子ども向けの遊具のような形で巨大な足場が高く組まれており、研究者が樹冠部(木の上部)にアクセスしやすくするために設置されている。照葉樹の葉を上から見下ろす形で観察したり、落ち葉を収集するリタートラップを設置したりして、樹木成長のモニタリモノレールが誘う神秘の森森に学び、森と生きる紀伊半島の地図。和歌山研究林の地図。多様な樹木の標本。和歌山研究林には多種多様な生き物が生息している。照葉樹を上から見下ろして観察できる「ジャングルジム」。05  Litterae Populi Vol.75

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