News

夏の礼文島で、考古学者と人形劇師がコラボ授業を実施

  • news

北海道 稚内市から、西方60キロメートルの日本海に位置する最北の離島、礼文島。毎年、夏の礼文島で、北海道大学 アイヌ・先住民研究センター 教授の加藤博文さんによる国際フィールドスクールが開講されます。加藤さんは、8年前から礼文島北部にある礼文町浜中2遺跡で発掘調査を続けてきました。加藤さんの研究チームにより、縄文文化晩期から近世アイヌ文化期まで、3000年という歳月の中、人々が生活してきた歴史が連続して見つかっています。

(フェリーから望む礼文島)

(発掘現場にて出土物について説明する加藤さん)

加藤さんの国際フィールドスクールに参加するのは、北海道大学の学生や、ロシア・フランス・韓国・台湾など、海外からやって来た学生、研究者たち。今年は8月7日から25日までの19日間、3つのグループに分かれ、浜中2遺跡での発掘、出土物の洗浄作業、島内でのインタビュー調査を日替わりで行いました。今とは全く違った環境や文化の中で暮らしてきた人々の歴史を、様々なバックグラウンドを持つ生徒たちが掘り起こす―これもひとつの異文化交流のかたちであり、自分の生まれ育った場所や国籍などに囚われることなく考古学に触れて欲しいと加藤さんは言います。

(礼文町浜中2遺跡 発掘調査の様子)

(アワビの貝殻が出土していました)

そしてもう一つ、加藤さんが昨年からこのフィールドスクールに取り入れているものがあります。プラハ在住の人形劇師、沢 則行さんによるワークショップです。沢さんは、オホーツク文化を題材に人形劇を創作し、その作品には加藤さんの浜中2遺跡での研究成果も取り入れられています。沢さんのワークショップが行われたのは、フィールドスクールの12日目。朝、生徒たちは浜中2遺跡近くの浜辺で、貝殻やシーグラス、木の枝やプラスチックの欠片など、漂流物を集めました。そして、今は廃校となっている礼文町上泊小学校の体育館で漂流物を使って工作をし、それがどのように使われていたかを想像して物語をつくりました。浜中2遺跡から様々なものが発掘されるのは、実は大昔に大きな船が流れ着いたからではないか。昔の人はきっとこんな料理を食べていたに違いないなど、それぞれ自由に歴史を想像して発想を膨らませました。

(人形劇師の沢さん)

(貝殻やシーグラスで作品をつくります)

(できあがった物語を発表し合いました)

夜には、影絵の創作をしました。黒い画用紙とセロファンで切絵をつくり、それをOHPでスクリーンに投影します。礼文島で感じたことでも、好きなものでも、作品テーマは自由。一見、考古学のフィールドスクールと何の関係があるのだろうと不思議に思うかもしれません。しかし、研究に「想像力」は必要不可欠であり、今ある研究をなぞるだけではイノベーションは生まれません。アーティストの授業を通して、学問的なルールを超えた自由な発想で自分の好きなものを作ってみる、そうした経験が将来の研究の仮説づくりに繋がるのだと加藤さんは話します。

(真剣に作業する海外の学生たち)

(完成した切絵をOHPで操作します)

(砂絵で表現する学生もいました)

古代より、北南からヒトやモノが往来してきたクロスロードで、今もなお、様々な人々が海を通して繋がり、共に学んでいます。その地で起こった、考古学者と人形劇師という異質のコラボレーション。加藤さんの国籍や学問という枠組みを超えた挑戦は、これからも続きます。

(総務企画部広報課 研究広報担当  菊池優)

掲載日:2018年8月28日