後輩の皆さんにエールを送る機会を頂き、光栄に思います。私は、旭山動物園に獣医師として勤務しています。園内の飼育動物の健康管理が第一の仕事ですが、野生動物の現状や身近な自然の大切さを伝える教育普及活動も重要な使命です。例えば、こどもたちに生きた動物とのふれあいを通して、動物の生命や温もりを伝えるガイドは、非常にやりがいのある楽しい活動です。同時に、人に何かを「伝える」ためには、相当なエネルギーが必要です。ガイドの終了後には、長時間に及ぶ手術の後よりも疲れを感じることがよくあります。逆に言えば、どっぷりと疲れを感じることができたガイドや講演は、気持ちを強く込められており、人の心に入り込めていると感じます。ここでも、何か一つ伝わるよう、エネルギーを込めます。
北大を卒業して10年が経ちました。居酒屋旧「き○た」の看板によじ登って体操技を披露したり、コンパで仲間と裸踊りをしたり、どしゃ降りの雨の中、水たまりで競泳したり、時に羽目を外し過ぎて人に迷惑をかけてしまった学生時代を懐かしいと思うようになりました。獣医学部で北大駅伝に出場して、チーム7人中私も含め4、5人が区間賞を独占し、連続優勝を果たしたことがありました。駅伝後、みんなくたくたになった身体で賞品の勝利の美酒に酔いしれたのは最高の思い出です。そんな私も今は、息子2人の父になりました。
現在は、動物園のお医者さんとして、飼育動物の健康を守っております。一般的な獣医師とは異なり、病気の動物を待つのではなく、自ら足を運んで栄養・衛生管理などを指導し、定期的に健康診断を行って病気にさせない「予防医学」を実践しています。死亡した動物は、すべて病理解剖を行い、死因を調べて対策に活かします。次に、細胞やDNAを採取して保存したり(冷凍動物園)、剥製や骨格標本などを教材に用いたり、死体を生かします。また、スタッフと入園者の健康と安全を守る公衆衛生、希少動物の人工繁殖、野生動物の疾病や生態などに関する研究も重要な役割です。
私は、今、野生のエゾタヌキに電波発信機を装着してリリース後、生態を追跡調査しています。周辺の森には、外来種アライグマが分布を拡大しており、競合による影響が心配されています。希少種と呼ばれるようになる前に、身近にいる「普通」種を診て予防することが大切だと考えます。タヌキを一つの環境指標とし、森の健康状態を診ていきたいと思います。
密猟ペットの販売、外来種、カラスのゴミ問題、H5N1鳥インフルエンザ、地球温暖化、… いずれも私たち人間が引き起こしている問題です。動物や他人のせいにすることがありますが、まずは自分が気を付けられることを実行しつつ、加えて「伝える」ことで正しい知識を共有して予防につなげることが最も重要です。大人には、先祖から受け継いだすばらしい自然を次世代のこどもたちにしっかりと引き継ぐ責任があります。今後も、自分が成長しつつ、息子を含むこどもたちをはじめ広く一般の人々に生命の温もりや自然の尊さを「伝え」ていくことにエネルギーを注ぎ続けたいと思います。
私は、学生時代に戻れるならば、もっともっといろんな新しいことに挑戦したいと思います。無駄な勉強は何一つありません。何でも挑戦できる、かけがえのない学生時代を満喫して下さい!
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