ホスピタリティの醸成あんたがた、良い事やってるよ〜。

念願の並木cafe実現
 毎年、イチョウ並木の黄葉シーズンになると並木の周辺はたくさんの観光客と市民で賑やかとなる。車道に出て写真を撮ったりギンナンを拾ったりと危ないことも多いため、平成18年から交通安全対策の一環として北13条道路(イチョウ並木)の交通規制を行い、車道を歩行者に開放する日を設けている。
 いまでは、「イチョウ並木満開」の新聞報道で来訪者が殺到、毎年一万人を超えるという。まさに北大としては一大事な期間と言えるが、これまでは来訪者の安全面を重視するため、イベント色は皆無であった。
 しかし、しかし、並木の写メを撮って帰るだけなら、クラーク像の写メを撮って帰るのと同じ、行って、見て「触れる」ということが肝心だろうと…、一年前の並木の混雑ぶりを見て誓った思いは1年を経ても変わらず、学生たちと相談した結果、イチョウ並木にオープンCafeを設置し、学生の心に触れてもらい、黄葉をますます色濃く目に焼き付けてもらおうと、実施を願い出ることになった。
 また、しかし、国内では食品のトラブルが話題となっていた時期だけに、来訪者に飲み物を提供することが問題となった。最初は色よい返事がもらえず落胆した。そこで、衛生面の再検討を行うべく、北大生協の食品衛生管理者のご指導を仰いだり、生産物賠償責任保険(PL保険)に加入したりすることで、関係部署の温かなご理解をいただき、直前の段階で実施を認めてもらうことができた。
 こうして、昨年11月2日(日)、3日(月)の2日間、イチョウ並木の黄葉の下で、念願の「並木Cafe」が実現した。

みんなストレスためてるからね〜
 そんなこんなで臨んだ並木Cafeは、両日とも時折雨交じりで雲行きのあやしい中、お客様をお迎えすることになった。衛生面では万全ながらその他の準備不足は否めなかった。少し残念な気持ちを引きずりながら早朝から雨よけのレンタルテントを設営したり、旧電子研の建物でお湯を沸かしたりして準備を始めた。そこに、交通規制にあたる警備の方が話しかけてくれた。「どんな仕事でもいまの世の中、みんなストレスためてるからね〜。こんな景色を見ながらおいしい珈琲を飲めるなんて…。あんたがた、良い事やってるよ〜。」そんな温かい言葉に励まされ、並木近くに長テーブルを置きハンドドリップで珈琲をいれると2・3人が近づいてきた。そうすると周りの人も近づきやすくなって、どんどんと人が増える。「学生さん?去年はやってなかったしょ?」「いくらなの?」「あったまるねー。」「助かるわ〜」と賑やかになってきた。
 その数は、2日間で1,100人を超えた。これまでの実験的Cafeの来場者は、一日4・5時間の開設でせいぜい50・60人くらいだったから、およそ10倍。お客様が列を作って待たれているのに他のお客様とゆっくりお話している訳にも行かず、ちょっと残念な面はあったが、このような体験も貴重だった。

ギターアンサンブル、手を温めながら熱演
 今回のおもてなし企画として、ギターアンサンブルの学生サークルに協力してもらい、生ギターのライブ演奏をお願いした。何人もの学生が入れ替わりで腕前を披露してくれたが、屋外で震えながらの演奏は、最悪のコンディションであったことは確か。手を温めながら頑張る学生をお客様が励ました。2日目の早い時間に「今日はギターやってないの?」と尋ねてくれたお客様もいた。学生リーダーに聞いたところ、ギターアンサンブルにとってもお客様と間近で交流できる「貴重な機会だった」と言ってもらった。

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おばあちゃんからお小遣い?
 並木Cafeをはじめ、これまでの実験的Cafeは「ワンコイン」の募金方式でやらせてもらっている。お客様との会話がはずんだりすると「楽しませてもらったから」と原価以上の募金を投じてくれることもあり、お客様とうまくコミュニケーションが取れた証しとして意気に感じることがある。
 逆に、「はっきり値段を決めてほしい」と言われることも多く、並木Cafeのように、きちんと事情をお話してご理解をいただく時間がない場合は、お客様に余計なストレスを与えてしまうことにもなる。「わたしはわからないから…」と70代のおばあちゃんは私たちに千円を差し出してくれた。詐欺まがいのことはできないので、慌ててワンコイン分をいただき、残りをお釣りとしてお返した。小さく微笑むおばあちゃんは、しばらくわれわれの側にいてお話をしたり、遠巻きにギターの演奏を聴いたりして楽しんでくれた。
 ふと、隣の学生スタッフと別のお客様の会話が耳に入る。「おばあちゃんからお小遣いをもらったようでうれしいです…。」学生の祖母と同年代の女性からいただいた募金をありがたく頂戴し、楽しくやりとりする学生を見て、「なかなか成長したなあ…」と実感、寒空の2日間ではあったが、来訪者と学生たちの間にはほのぼのとした空気が流れた。


 この2日間のイチョウ並木来訪者は、悪天候にもかかわらず1万3千人を超えた。その1割弱の方に珈琲を飲んでいただいたことになる。私たちとのやりとりで「北大は良いところだった」と感じていただければ何よりだが、「不愉快だった」と思われた方が一人でもいらっしゃったら、次はない…。そんな緊張感に苛まれつつ臨んだ並木Cafeであったが成功した面もあれば反省点もある。この種がやがて芽を出し、いつかイチョウの黄葉のように色づくといい…。

◆ご意見・お問い合わせはこちらまで◆
北大Cafeプロジェクト mail:g-sodan@academic.hokudai.ac.jp
【この企画は、2007年度「もしも、杜にスタバを創ったら」の続編です。】


編集後記?
 今号は、創刊40周年達成記念ということで、逸見理事・副学長に特別寄稿をお願いした(4ページ参照)。掲載写真の撮影のため、写真部の福田春美さん(2ページ「えるむさん」参照)と一緒に逸見先生の通勤姿を待ち構えた。早朝、農学部方面から正門横の事務局までの道を先生と歩いた。途中、先生は学内関係者をはじめ、顔なじみの幼稚園児や愛犬とお散歩の一般女性まで、総勢10数名&一匹と「おはよう」の挨拶を交わされた。とかく朝は誰もが憂鬱状態だと思っていたが、遠くから「コロー!」と叫ぶ先生の姿を見た時に…、もうかなわないと感じた。
 われわれの目指す姿は、先生のように普段から「地域連携」を実践する姿そのものである。さり気ない配慮で気持ち良くコミュニケーションを取られる姿を見て感銘したとともに、われわれも肩肘張らずに、地域の方たちと交流できるような「場」を求めて地道に取り組んでいきたい。
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