2005年初夏、北大の学生委員会委員長(副学長)と課外活動専門委員会委員長は、連名で大学祭における酒類の持ち込みと販売を禁止する掲示を張り出した。
学生側の大学祭実行委員会もこれを受け容れており、「禁酒」の大きな看板を設置した。大学祭期間中の禁酒は、かなり厳格に守られた。
専門委員会委員長だった私は、毎日、中央道路の左右に並ぶ模擬店を見回ったが、二日目の夜であったか、顔見知りの女子学生に出会った。今年の大学祭の様子はどうか、と尋ねたところ、「酔っぱらいがいないので気持ちがいいです!」というのが彼女の第一声であった。
私は少々安心するとともに、前年までの大学祭の「惨状」を思い、あれは訪れる大勢の市民にどう見えていたのだろう、と考えた。ひどいものであった。
2003年の大学祭では、17人の学生が全く動けなくなる泥酔か、北大病院に救急車で直送される急性アルコール中毒に陥った。学生委員会は強く注意を喚起したが、2004年にも13人の学生が同様の事態に陥った。当時、私の研究室は高等教育機能センター、つまり大学祭の中心地にあったが、夜には救急車のサイレンの音の響いて来ること、一度や二度ではなかった。「またか」と思い、「飲む方も、飲ませる方も、どうかしているのではないか」と思ったものである。
2005年春、たまたま全学の学生委員会のメンバーとなり、課外活動専門委員会の委員長にも指名されたのだが、第1回の学生委員会の終了するころ、特別委員である保健管理センター長の武藏先生(医学部教授)が、印象的なスピーチを行った。
過去30年、酒が理由で死亡した旧国立大生の1/4が北大生である。事態は深刻である。来る大学祭では学生たちの飲酒を何とかして止めさせてほしい、といった内容であったと思う。
これは大変なことになった、というのが私の実感であった。回りにいた委員の中には「無理、無理」といった顔で苦笑している委員もいた。しかし、実際に武藏先生と話してみると、事態は本当に危機的だということが私にも理解できた。
10年ほど前まで、アルコールで死亡する北大生が続出したが、その後は諸注意もあって小康状態が続いている、しかし昨年(2004年)、一昨年(2003年)の状況を観察していると極めて危ない、また死者が出そうな雰囲気だ、というのである。最近、医学部の医者複数が大学祭期間中は緊急事態に備えて待機してくれる体制ができつつあるが、しかし、「いざとなれば医者が介抱してくれる」と安心するようになったのか、学生は前よりひどく飲酒するようになった、「イヤなマグマが蓄積中です」、今年はもう、ドクターの待機を中止し、医者をアテにして飲まぬよう、警告するつもりです、とも言う。
そのころ、私が委員長になったと聞いて、大学祭実行委員会で活躍した経験のある、ある学生が内部告発的な貴重な情報を提供してくれた。
悪質な連中の模擬店が少なくない。大学祭を訪れる市民・学生は少なくとも数万人で、1人が千円分飲食しても数千万円の大金が落ちる。連中は、ともかく儲けたいから、客、特に学生には思いっきり飲ませている。350ccの缶ビール(観光地のホテルでは350円)なんて大量仕入れすれば百数十円になる、それをグラス2杯分にして1杯200円で販売する。焼き鳥の串も中国製の安いのを仕入れ、焼いて高く売る。ものすごく儲かる。
民間の焼肉業者やバー経営者も入り込み、ふだん自店に来る北大生をウェイターにし、学生の名前で営業している。場所代はタダなのだから、儲かる。時には高校生にも飲ませる。こういった悪質な連中は、実行委員会の指示など聞く気がないし、学生がどんなに酔っていても「それ飲め、やれ飲め、医者つきだ!」と言って、とことん勧める。学生が急性アル中で死んだって、逃げるか、本人が自分の意思で飲んだのだと言えばよいし、責任なんか取る気はない。夜になると喧嘩は起こる。暴走族は入ってくる。
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