この度,獣医学研究科斉藤昌之教授が,「エネルギー代謝の調節に関する生理生化学的研究と肥満対策への貢献」の功績により,北海道科学技術賞を受賞されました。この賞は,科学技術の研究開発あるいは実践活動を通じて,地域産業の振興,道民の生活の向上,国際社会への貢献に寄与した功績をたたえ,道民の科学技術振興意欲の向上を図るため贈られるものです。同氏の功績と略歴を紹介します。
わが国成人の1/4以上に見られる肥満は,糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の最大の危険因子であり,メカニズムの解明と対策が急がれています。肥満はエネルギー出納の調節が乱れ中性脂肪が脂肪組織に過剰蓄積した状態ですが,そのメカニズムに関する従来の研究は,エネルギー摂取(摂食行動)の調節に焦点を当てたものが大部分で,エネルギー消費については,自発的な運動が強調されるのみで,無意識に行われている自律的調節に関する知見は乏しいのが現状でした。
氏は,体温調節や寒冷適応に必須(ひっす)の非ふるえ熱産生を行う褐色脂肪組織に着目して,マウスやラット等の実験動物やイヌを用いて個体から分子・遺伝子レベルまで詳細に解析することによって,1)この特殊な脂肪組織が食事摂取の増減に適応しながら間脳視床下部―交感神経系を介してエネルギー消費量を調節する役割があり,その機能低下が肥満の発症と重症化を起こすことを明らかにしました。次に,2)褐色脂肪熱産生のキィー分子であるミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)の作用を解析するために,独自に樹立した褐色脂肪細胞株を用いて,UCP遺伝子の発現が交感神経ノルアドレナリンのβ作用によって促進されること,その際β3アドレナリン受容体と核内受容体が重要であることを明らかにしました。これらの基礎的研究で得られた成績に基づき,3)脂肪細胞に特異的に発現するβ3受容体の作動薬が褐色脂肪組織を活性化し体脂肪の分解を促して抗肥満効果を発揮することを実証し,伴侶動物臨床への応用に取り組みました。4)さらに褐色脂肪を活性化する食餌(しょくじ)成分について,生研センター基礎研究推進事業「肥満・脂肪代謝制御の分子機構と食品中の活性化因子に関する研究」プロジェクトによって広範に検索し,肥満や生活習慣病向けのプライマリーケア食品開発への手掛かりを得つつあります。
このような氏の研究内容は,国内外の学会,シンポジウム発表をはじめ,300編余りの原著論文,総説,著書として公表されており,国内外から高い評価を受けつつ現在も継続発展させています。なお,氏は,第26回日本肥満学会の会長として肥満に関する研究成果を発表・討論・啓蒙(けいもう)する学会を平成17年10月に札幌市で主催し,市民向けの公開講演会なども開催する予定です。以上の功績は,基礎および臨床医学のみならず栄養学や獣医学など,関連する幅広い学問領域の発展と共に,地域産業の振興,道民の生活向上に寄与するものであります。
| 略 歴 等 |
| 生年月日 |
昭和17年11月18日 |
| 本籍地 |
北海道 |
| 昭和40年3月 |
北海道大学理学部化学科卒業 |
| 昭和45年3月 |
大阪大学大学院理学研究科生物化学専攻博士課程修了(理学博士) |
| 昭和45年4月 |
大阪大学蛋白質研究所代謝部門研究生 |
| 昭和48年4月 |
愛媛大学医学部講師 |
| 昭和49年5月 |
愛媛大学医学部助教授 |
| 昭和56年5月 |
医学博士(大阪大学) |
| 平成元年3月 |
北海道大学獣医学部教授 |
| 平成7年4月 |
北海道大学大学院獣医学研究科教授 |
| 平成13年5月 |
平成13年度日本栄養・食料学会学会賞受賞 |
| 平成13年5月 |
北海道大学評議員 |
| 平成15年5月 |
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