北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)では,大学受験をめざす高校生たちに理工系キャリアについて理解を深めてもらうことを目的に,進路選択を支援する「体験型セミナー」を,3月21日(水・祝日)に札幌市内のイベントスペース
Edit Hall で開催しました。最新のサラウンドシステムを体感しながら音響と再生技術の進化について学び,さらにそれを開発したエンジニアたちと語り合うことで,理工系への進学に夢を持ってもらおうというものです。
音響機器メーカーパイオニア株式会社のほか,高校生たちにアプローチするために学校法人河合塾の共催を得,さらに朝日新聞北海道支社の後援,本学工学部ヒューマンリソース推進部の協賛,北海道大学キャリアセンターの協力を得て開催しました。
第一部,「サラウンドを一緒に楽しもう」では,パイオニア株式会社が東京から運び込んだ総額350万円のサラウンドシステムを使った試聴体験も織り交ぜながら,パイオニアで働く「音のエンジニア」に語っていただきました。
細井慎太郎さんは,本学工学研究科卒で,パイオニアが世界に誇るスピーカーを開発した一人です。細井さんは,スピーカー製作の難しさ,面白さについて,実験を交えながら語ってくださいました。
サラウンドデザイン一筋35年の沢口真生さんからは,音の「響き」再生の歴史や,5.1chサラウンドの原理について説明があり,甲子園球場での野球,ウイーン・オペラ座でのクラシックコンサートなど,様々な音源で世界最高峰のサラウンドを体験しました。
第二部「開拓者になろう! 未来に広がる理系のキャリアパス」は,CoSTEPの難波助教授の司会により,細井さんに,パイオニアで商品企画を手がける足達さんが加わってのトークセッションです。
細井さんは,自分の進路をどう切り開いてきたかについて,こんな話を披露しました。「小学生の頃からパソコンで遊んでいたので,コンピューターを極めてやろうと思って大学院では情報工学を学んだ。けれど就職するときには,違う分野に行って世界を広げたい,感性を生かした仕事をしてみたいと思って,今の会社を選んだ。」
一方,足達さんからは,「音楽が好きで,大学で音響工学を学び,エンジニアとして就職した。けれど,技術職よりお客さんと商品をつなぐ仕事のほうが自分に向いていることに気づき,今の商品企画に転向した。こんなふうに,就職してから方向転換する人もいる」という話。
会場にいた本学工学研究科の大学院生3人も,自分のこれまでの経験や,就職を目前にした今現在の悩みなど,理工系のキャリアについて本音で語ってくれました。ヒューマンリソース推進部のスタッフからは,大学の現状をふまえたアドバイスもありました。
会場の高校生から,「特にやりたいことも無いのだけど,どうしたらいいですか…」「やりたいことはあるけれど,本当にできるのかわからない」など,率直な質問がいくつも出ました.細井さんと足達さんは,「興味を持ったり不思議だと思ったら,つっこんでみることが大切」「エンジニアにも感性が大切。美術などのアートにも積極的にふれて欲しい」などと,自らの進路選択の経験や社会に出てからの経験を踏まえてアドバイスをしていました。
参加した高校生からは,「理工系の研究にはどのような分野があるのか知ることができて,勉強になりました」(高2女子),「音づくりにこれだけ熱意を込められる人がいるんだと知って感動した」(高3男子)などの感想が寄せられました。現役のエンジニアや大学院生と身近に語り合う機会をもつことで,通常の大学案内ではわからない理工系キャリアの魅力が伝わったようです。
科学技術のなかみを人々に伝えていく,それも科学技術コミュニケーターの役割ですが,科学技術に関わる仕事の実像や携わる人たちの人間像を人々に伝えていくことも,科学技術コミュニケーターの重要な役割だとCoSTEPでは考えています。
これからも,いろいろな人々と連携しながら,科学技術コミュニケーターを養成する活動の一環として,このような取り組みを発展させていきたいと考えています。
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スピーカーのしくみを説明する細井さん |
高校生と語るエンジニアたち |
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(科学技術コミュニケーター養成ユニット) |
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