訃報
名誉教授 櫻庭 一郎(さくらばいちろう) 氏(享年80歳)
名誉教授 櫻庭 一郎(さくらばいちろう) 氏(享年80歳)

 名誉教授 櫻庭一郎氏は,病気療養中のところ平成19年3月18日(日)午後8時23分,ご逝去されました。ここに先生の生前のご功績を偲び謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和2年1月2日札幌市にお生まれになりました。昭和17年庁立第1中学校4年から海軍兵学校へ入学,昭和20年3月同校を卒業され,海軍電測学校に勤務されました。昭和24年3月北海道大学工学部電気工学科を卒業され,北海道電力株式会社に5年間勤務した後,北海道大学大学院工学研究科電気工学専攻に入学され,昭和34年3月同専攻の博士課程1期生として修了されました。同年4月北海道大学応用電気研究所(現電子科学研究所)に助手として採用され,翌年には北海道大学工学部助教授に昇任されました。昭和38年から米国ミシガン州ミシガン州立大学で客員助教授を勤められ,昭和40年北海道大学工学部教授に昇任されました。担当は電子管工学講座でしたが,その後,同講座は電子物理工学講座に名称を変更しました。平成2年3月停年退職され,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。その後,北海学園大学工学部に勤務し,工学研究科長,工学部長を歴任されましたが,平成10年3月同大学を停年退職されました。
 この間,先生は長年にわたり,マイクロ波,光波などの高い周波数帯の電磁波を扱う電子デバイスについて研究し,その特性を解明しております。
  大学院博士課程在学中は,電子ビームを利用してマイクロ波帯の電磁波を発生させる後進波発振管の研究を国内で初めて実行し,その過渡特性を解明しました。特に,その発振周波数が変化する周波数プッシング現象に関する研究成果は,国内外で引用され高い評価を得ています。
 北海道大学在職中,マイクロ波で変調されたレーザ光を光ヘテロダイン方式で検出する際のデバイスとして,静電界で集束した電子ビームを用いる電子ビームデバイス(CEF型電子ビームデバイス)を解析するという独創的な研究を行いました。広い周波数帯域で高い検波出力が得られるという成果を国際会議で発表され高い評価を得ました。
 また,光波帯での電子デバイスとしては,物質の非線形性を利用して赤外線の像を可視光像に変換するパラメトリック映像アップコンバータに早くから着目し,その研究に情熱を注ぎました。そして,3波のパラメトリック相互作用を用いた場合では,位相整合と結像の関係,媒質厚さによる収差・色収差を究明し,解明しました。また,2光子共鳴吸収媒質を用いる4波のパラメトリック相互作用を用いた場合には,可視光像の諸収差及び空間周波数伝達特性を解明しました。
 北海学園大学工学部在職中,弱い光でも非線形光学効果が顕著に起きるフォトリフラクティブ媒質に着目し,この媒質中での非線形光学現象を利用した位相共役光の反射率,時間応答特性,得られる像の広がり(収差)についての貴重な知見を発表しています。
 このように先生は,後進波発振管や静電界集束型(CEF型)電子ビームデバイスなどの電子ビームを用いるマイクロ波電子デバイス及びパラメトリック映像アップコンバータなどの光学領域における電子デバイスに早くから着目し,先駆的な研究を行いました。得られた多岐かつ多数にわたる成果とその独創性は高く評価されています。
 以上のような研究面での功績のほかに,昭和34年以降の北海道大学在職中,学部においては電子管工学,電子デバイス工学,量子電子工学,光電子デバイス工学及び光エレクトロニクス概論など,大学院工学研究科においては,電子物理工学特論第1,同第2,電子工学特論ゼミナール,電子工学特別実験などの講義,演習,実験を担当するとともに,実験と研究の指導に当たり多くの技術者と研究者の育成に貢献されました。停年退職の直前には北海道大学大学院委員会の委員にも選出されました。また,学外にあっては,室蘭工業大学,北見工業大学,函館工業高等専門学校,釧路工業高等専門学校,北海学園大学及び北海道商工研修協会の非常勤講師として,レーザ工学及び光エレクトロニクスの講義を担当し,北海道大学以外の学生の教育にも尽力しました。
 さらに,平成2年からの北海学園大学在職中,学部においては電子デバイス工学,レーザ工学,光エレクトロニクスなど,大学院においては,電子・光デバイス特論,フォトニックデバイス特別講義などの講義を担当し,学生の教育に尽力するとともに,平成3年4月からの1年間は,新設された大学院工学研究科の初代研究科長を務められ,さらに平成4年からの3年間は工学部長を務められるなど,北海学園大学の大学運営にも尽力しました。
 両大学に在職中,先生は電子デバイス工学の研究と教育に努めるかたわら,大学生の教育のため,電子管やレーザなどの電子デバイスの分野における大学生向けの教科書の執筆にも尽力し,研究者向けのものを含めて13冊(改訂版を含む)を上梓し,これらの著書は高く評価されています。これらの著書はわかりやすいため多くの高専・短大・大学の教科書として用いられ,そのうちの1冊「レーザ工学」は,わが国の工学基礎教育の普及発展に功績があったと認められ,平成8年7月に日本工学協会から著作賞を授与されました。

 以上のように,先生は長年にわたり,北海道大学及び電気・電子工学の発展とその研究者・技術者の養成に尽力されました。ここに先生のご冥福を心からお祈りします。

 

(工学研究科・工学部)


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