名誉教授 農学博士 久新健一郎氏は,平成19年10月22日午後8時33分,循環器系疾患のためご逝去されました。ここに先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
先生は,大正15年10月2日北海道に生まれ,昭和25年3月九州帝国大学農学部を卒業,同大学大学院特別研究生を経て,昭和28年5月北海道大学助手(水産学部)に任じられ,昭和30年4月講師,昭和37年2月助教授,昭和49年4月教授に昇任し,漁業学科資源生物学講座を担当し,平成2年3月停年により退官され,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
先生は,永年にわたって教育と研究に携わり,多数の学生を薫陶すると共に,資源生物学講座の研究体制の確立と整備充実に尽力されました。
研究面においては,資源生物学,個体群生態学,魚類学の分野において広範な研究に幾多の業績を残されていますが,主なものを大別すると次の4課題に集約することができます。一,「ホッケとスケトウダラについての資源生物学的研究」。北海道の重要な漁業資源であるこれら2魚種において,ホッケでは初期生活,年齢,成長等について,また,スケトウダラでは卵巣の成熟,初期死亡,分布等について解析し,これら2魚種の資源研究の基礎を確立されました。二,「卵,稚仔の生残と形態変異に関する研究」。ケムシカジカ,ツマグロカジカなどの胚発生並びに仔魚の発育とその過程における形態的特徴を初めて確認され,特定条件下での生残曲線を明らかにされました。またスケトウダラなどでは水温や餌料環境によって死亡率が変化し,形態も変異することを明らかにされ,これらの条件が初期死亡と形態に影響を及ぼす重要な因子であることを確認されました。これら一連の研究成果はそれぞれの魚種の生活初期生態に関する重要な資料となりました。三,「北海道周辺における未利用漁場調査」。茂津多,積丹,奥尻島などの水域の漁場調査を行い,これによって得られた海洋条件,魚類資源,底棲生物,卵・稚仔魚等に関する調査資料は,それぞれの水域の魚類資源を有効に利用するための漁港整備の基礎資料の一つとして高く評価され,利用されました。四,「南シナ海,インド洋水域の魚類図鑑の発刊」。南シナ海1冊,インド洋水域では,2冊図鑑が出版され,上記3冊の図鑑はこれら2水域の魚種を判別するための貴重な資料となっています。
学外においては,日本水産学会評議員,日本魚類学会評議員を歴任し,学会の運営と学術の発展に努力され,地域社会活動としては,農林水産省北海道水産統計地域協議会委員を長期にわたって勤め,漁獲統計の整備と漁況及び流通の解析に貢献されました。さらに,水産庁の日米加サケ・マス漁業委員会研究部会委員として国際会議に出席され,鱗相解析からアジア系カラフトマス資源の沖合分布,系統群,母川群の特徴等を明らかにし,サケ・マス漁業における諸問題の解決にも当たり,平成19年4月には瑞宝中綬章を受賞されました。
このように,36年余にわたり,北海道大学において水産資源に関する研究指導者として優れた業績を挙げ,学部・大学院において数多くの人材を養成し,学術の進歩と産業発展に貢献されました。ここに謹んで先生のご冥福をお祈り申し上げます。
(水産科学院・水産科学研究院・水産学部)
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