訃報

名誉教授 もり  樊須はんす 氏(享年79歳)

名誉教授 森 樊須(もり はんす) 氏(享年79歳)

 名誉教授 森樊須氏は,平成19年9月21日脳梗塞のため79歳をもって逝去されました。ここに先生の生前のご功績を偲び謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和3年8月28日東京市に生まれ,昭和27年3月北海道大学農学部農業生物学科を卒業,北海道大学農学部助手,助教授を経て,昭和46年4月教授に昇任し,応用動物学講座担当となり,昭和61年6月から農学部附属博物館長を兼任,平成元年4月から平成3年8月まで北海道大学評議員を務め,平成4年3月に停年退職され,同年4月に同大学名誉教授の称号を授与されました。
 先生は,応用動物学,寄生動物学及びダニ学に関して意欲的に研究を推進し,特に応用動物学分野では,農作物を加害するハダニ類の生態学的研究及び天敵利用によるハダニ類の生物的防除について先駆的研究を行われました。また,野兎の造林木加害防除の研究では,新しい野兎嫌忌剤を開発し,実用化に成功されています。
 これらの研究の中で,ハダニ類の感覚行動に関する生態学的研究に対して,昭和36年3月北海道大学から農学博士の学位を授与されました。また,カナダ国立研究所(NRC)研究員(昭和38年)およびカリフォルニア大学客員研究員(昭和39年)の経験を生かして,農生態系における捕食性ダニ類の役割と利用に関する研究を発展,日本に初めてチリ原産のチリカブリダニを導入して日本産ハダニ類の防除に成功しました。その成果は「チリカブリダニによるハダニの生物的防除」(日本植物防疫協会・昭和52年)として出版され高い評価を得ています。これらの研究が対象となって,昭和59年度日本応用動物昆虫学会賞を受賞しています。
 一方,学内においては,応用動物学講座の教授として教育・研究に尽力されました。昭和63年度には北海道大学第二次試験実施出題部会責任者,同採点部会責任者及び北海道大学入学者選抜委員会委員,平成元年4月から平成3年8月まで北海道大学評議員を務め,本学の管理運営に尽力されました。教育においては,専門の応用動物学ばかりか全国で活躍する多くの野生動物研究者を育てあげました。
 また,学外におかれては,昭和47年10月から同50年4月まで日本学術会議国際生物学事業計画特別委員会委員,昭和55年2月から同57年1月まで文部省学術審議会専門委員を歴任。また,教育面では九州大学大学院農学研究科,山口大学農学部,神戸大学農学部,岩手大学農学部,帯広畜産大学畜産学部など多くの大学に非常勤講師として招聘されて講義を担当し,多くの学外の学生も育てられました。さらに,国交回復まもない中華人民共和国の復旦大学(上海)で招聘教授として集中講義を行われ,同国のその後の生物的防除研究発展に多大の貢献をされました。
 研究面では,前述のカナダ国立研究所,カリフォルニア大学の研究員のほか,国際生物的防除研究機構(IOBC・パリ)の評議員および副会長を務めました。また,代表者として文部省海外学術調査を組織し,タイ・フィリピン・香港(昭和45年,同48年)・マレーシア(昭和61年,同63年)において,東南アジアの植物寄生性微小動物の調査を実施,熱帯の様々な動物の分類・生態に関する多大の成果をあげました。
 学会活動においては,日本応用動物昆虫学会評議員,同学会長,日本環境動物昆虫学会評議員などを歴任する一方,第30回日本応用動物昆虫学会大会・日本昆虫学会第46回大会共催大会委員長を務めるなど,斯界の発展に尽力するとともに,国際学術誌 Experimental & Applied Acarology, Elsevier(実験及び応用ダニ学)の編集委員を長年務められ,ダニ学の世界的発展に寄与されました。
 以上のように先生は昭和27年3月に北海道大学を卒業して以来,教育者,研究者として一貫した信条のもとに,すぐれた業績をあげ,多くの研究論文・著書などを通じて学術の発展,学内・学外において後進の指導と斯界の発展に尽くすとともに,北海道大学評議員として大学の管理運営及び発展に貢献されました。ここに先生のご冥福を心からお祈りします。

(農学院・農学研究院・農学部)


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