訃報

名誉教授 まつ もと  ろう 氏(享年85歳)

名誉教授 松本 伍良(まつもとごろう) 氏(享年85歳)

 名誉教授 松本伍良氏は平成21年2月1日(日)午前7時36分,急性心筋梗塞のため85歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正12年9月22日,宮城県に生まれ,昭和24年3月東北大学工学部通信工学科を卒業,昭和26年5月同大学工学部助手に採用され,昭和33年4月同大学工学部助教授に昇任された後,昭和40年4月北海道大学応用電気研究所教授に昇任されました。昭和62年3月停年により北海道大学を退官され,同年4月,北海道大学名誉教授の称号を授与されました。その後,昭和62年4月から北海道尚志学園北海道工業大学教授に就任し,平成5年5月から平成7年3月まで,同学園の理事を併任しました。また,昭和62年4月から平成5年3月の期間は,(株)アドバンテスト研究所の常任顧問を兼任しました。平成7年3月停年により北海道尚志学園北海道工業大学を退職し,同年4月同大学の名誉教授の称号を授与されております。
 この間,同氏は,永年にわたって,電子材料学および医用電子工学の教育,研究に努め,その業績は,電気接点に関する基礎研究,真空接点に関する開発研究,薄膜素子に関する研究,医用遠隔計測に関する研究,環境電磁工学に関する研究などの広範な分野にわたり,多数の論文を発表し,工学・医学生の教育,研究指導に尽力し,多くの優秀な人材を輩出することにより,電子工学および医用電子工学の発展に大きく貢献されました。
 同氏の研究は,電子素子,なかでも電気接点に関する基礎的研究に注力し,電気接点の表面現象や真空中における電気接点の開閉現象ならびに短間隙委放電現象の測定器の開発等に関する研究を行ない,特に,真空中での電気接点の開閉現象に関する研究は,同氏が日本で初めてその重要性を指摘したものであります。その業績を認められ,昭和36年にはイギリスで開催された欧州電気接点会議に日本人として初めて招待講演を行ないました。この研究成果を背景に同人が開発研究を行った真空スイッチは,さまざまな通信関連の機器に使用され,日本の電子機器の信頼性向上に大きく寄与しました。
 以上の研究を基に同氏は,電気接点に関する研究を発展させ,薄膜素子の研究に着手し,その成果はMIM(金属−絶縁体−金属)構造素子,SNS(超伝導−常伝導−超伝導)構造素子,医用カーボンファイバ電極などに関する研究として結実しました。また,これらの電子素子に関する深い知見を背景に,医用遠隔計測装置への微小電子素子の応用について研究を進め,その業績により世界的に認知され,昭和55年6月から昭和57年5月まで国際バイオテレメトリー学会の副会長および理事を歴任し,国際的なリーダーとして斯界の進展に寄与し,国内における医用遠隔計測に関する研究を世界レベルまで引き上げる牽引車の役割を果たしました。その後も光を用いた新しい医用遠隔計測の手法や,移動体通信の医用遠隔計測への応用の先駆けとして通信衛星を使った遠隔計測手法を提案するなど,活発な研究活動を行なわれました。
 また,近年の電子装置の大型化・大電力化に伴い電磁環境が生体に及ぼす影響に関する研究の進展が望まれてきていますが,同氏は,この分野においても先駆的な研究を行い,早くから電磁界の生体影響研究の重要性を国内外に示すとともに,電界の計測法,解析法に関する優れた研究成果をあげました。電磁環境に関する同氏の見識は国内外に広く認められており,昭和55年12月から昭和57年12月まで資源エネルギー庁より大規模送電線電界等調査検討委員会委員に命ぜられました。
 同氏は,昭和50年2月から昭和52年12月および昭和61年2月から昭和63年1月までの二度にわたって文部省学術審議会専門委員を務めるとともに,昭和58年5月から昭和59年5月まで電子情報通信学会北海道支部長を努め,また,昭和60年4月から昭和62年3月まで日本エム・イー学会の北海道支部長及び昭和61年4月から昭和63年3月まで同学会理事を歴任し,平成2年5月に日本エム・イー学会名誉会員の称号を授与されました。国際的には,昭和57年2月から昭和58年2月まで,IEEE(アメリカ電子通信工学学会)のCHMT(電子素子,混成回路・材料)委員会東京支部長に任ぜられ,昭和62年1月にIEEEよりフェローの称号を授与されました。
 以上のように同氏は,永年にわたり,電子工学および医用電子工学の研究・教育を通じて学術振興および人材育成に多大な貢献をし,その功績は,誠に顕著であり,同氏のこれらの学術研究および活動の功績に対して,平成13年4月勲三等旭日中綬章が授与されています。
 ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(電子科学研究所)


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