名誉教授 本堂正夫氏は,平成21年2月11日午前11時9分,誤嚥性肺炎のため96歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,大正2年1月16日,岩手県に生れ,昭和11年3月東北帝国大学法文学部英文科を卒業されました。その後,昭和12年1月東北帝国大学事務嘱託(常勤),昭和15年5月東北帝国大学附属図書館司書を経て,昭和21年4月北海道帝国大学予科講師嘱託(常勤)として着任なさいました。以来,昭和23年4月北海道大学予科講師(常勤),昭和23年5月予科教授,昭和24年6月法文学部助教授,昭和26年4月文学部助教授,昭和39年8月に文学部教授となられ,停年により退官された昭和51年4月1日まで,30年の永きにわたり,北海道大学で研究・教育に従事されました。昭和51年4月北海道大学から名誉教授の称号を授与されておられます。
北海道大学を退官後は,昭和51年4月藤女子大学文学部教授となられ,昭和58年3月同大学を退職されるまで,7年間私学での高等教育に寄与されました。
同氏は,北海道大学に赴任以来,教養部の外国語(英語)の講義を中心に,文学部及び大学院文学研究科において英文学を講じ,幾多の学生の教育と指導にあたられました。同氏の在職期間は,第二次世界大戦後に大学の機構制度が大きく変化した時代にあたり,次から次へと新たな機構が発足しました。昭和22年に法文学部設置,昭和25年大学予科の廃止,そして法文学部が文学部と法経学部に分離,昭和28年には大学院文学研究科が設置されました。こうした変革期における基礎の確立に払われた同氏の業績は,高く評価されるものであります。特に,大学院文学研究科の発足に際しては,その計画の当初から細かく意を配し,制度の充実に努められました。
専攻された英文学の分野では,学術研究の成果を広く一般教育の理念に融合させ,また,円満な人格を通して,多くの大学院学生の育成に大きな役割を果たされました。同氏の研究は,シェイクスピアを中心とする英国16・17世紀のエリザベス朝の劇文学,英国ロマン派の詩人,特にシェリー,キーツ及びブレイクといった詩人の作品を中心としていました。さらに,19世紀末の英国の詩人,G・M・ホプキンズを経て,20世紀アイルランドの作家,W・B・イエイツの詩,そしてデイラン・トマスの詩,T・S・エリオットの文化批評まで,研究は広範に展開しました。その成果は,幾多の論文をはじめとして,エリザベス朝劇作家トマス・デッカーの『靴屋の祭日』の注釈研究書,あるいはシェイクスピアの作品の中で,他の著名なものに比較して類書の稀な『ヴィナスとアドウニス』の翻訳出版として結実しています。また,こうした研究活動と並行して,この分野の学界の一層の発展を願い,日本シェイクスピア協会が発足すると同時にこれに参加し,同協会の北海道における活動の中心としての役割には大きなものがありました。
英語・英文学の教育と研究を通じて,直接指導した学生・大学院生は言うまでもなく,教育者としての誠実な態度は多くの人々に深い感銘を与え,研究者としての優れた業績は関連領域の研究発展に多大な貢献をなすものでありました。昭和61年4月29日には勲三等旭日中綬賞が授与されました。
ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(文学研究科・文学部)
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