理学研究院 中村玄教授が「漸近解析による散乱の逆問題の数学的研究」により,平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を,獣医学研究科 石塚真由美准教授が「野生動物のシトクロムP450と汚染環境適応能力解明の研究」により,農学研究院 高野順平助教が「ホウ素輸送の分子機構の解明と応用研究」により,それぞれ,平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞され,4月14日(火)虎ノ門パストラルにおいて表彰式が挙行されました。
本賞は,日本の研究者にとって極めて名誉あるものです。3氏の功績と略歴を紹介します。 |
| (総務部広報課) |
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理学研究院 中 村 玄 教授
均質な既知媒質内の未知の亀裂,空洞,介在物等(以下媒質の未知不連続性とよぶ)による波の散乱の逆問題は,音波を用いた海洋音響,地震波や超音波を用いた地質調査や非破壊検査・医療診断,電磁波を用いたレーダーやリモートセンシングに不可欠です。これは固定周波数を持った平面波をある方向から入射させたとき,これが媒質の未知不連続性により散乱されて出来る散乱波の遠方における球面波の振幅を計測して,媒質の未知不連続性を同定(決定と同義語)する問題であり,古くから海洋音響,地球物理学や医療工学,電波工学のそれぞれの分野で研究されてきました。しかし,それらはボルン近似などの近似理論や非線形最適化法に基づくものであり,その適用範囲は近似が有効な範囲に限られたり,非線形最適化を行うための初期予想に大きく依存するものでした。その一方で計測データを豊富にした場合,即ち入射方向と散乱波の観測方向を十分多く取れる場合は,媒質の未知不連続性を同定する数学的に厳密な様々な解法が,この10年余りの間に急速に進展しました。
受賞対象になった研究では,この10年余りの間に提案された代表的な解法を統一的に扱う枠組みを与え,その枠組みの中でこれらの方法を位置づけるとともにこれらの解法の相互関係を明らかにしました。その結果,これまで別々の解法と思われていたものが,相互に関連していることが明確になり,それぞれの解法が持つ利点を共有出来るようになりました。また,未知不連続性が完全な空洞ではなく,その境界の一部分が例えば音響的に硬いが,他の部分では完全には硬くなく,音響インピーダンスを持つような場合にも,その未知形状と音響インピーダンスを同定する解法を与えました。しかもこれらの未知不連続性の同定解法の有効性を,数値実験により実証しました。
代表的な解法の一つであるlinear sampling 法は,既に工学分野および関連分野に大きな影響を与えており,受賞対象になった研究で示した枠組はその解法を包摂したより多様で利便性に富む包括的な解法を与えるもので,その影響力は多大です。
| (略歴) |
| 昭和46年7月 |
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国際基督教大学教養学部理学科卒業 |
| 昭和49年3月 |
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東京都立大学大学院理学研究科修士課程修了 |
| 昭和52年3月 |
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東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学 |
| 昭和52年4月 |
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城西大学理学部助手 |
| 昭和52年11月 |
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理学博士(東京都立大学) |
| 昭和53年4月 |
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城西大学理学部講師 |
| 昭和55年4月 |
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城西大学理学部助教授 |
| 昭和56年9月 |
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米国Massachusetts Institute of
Technology(MIT)講師 |
| 昭和57年8月 |
| 平成3年4月 |
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城西大学理学部教授 |
| 平成6年4月 |
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東京理科大学理学部第二部教授 |
| 平成9年4月 |
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群馬大学工学部教授 |
| 平成13年4月 |
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北海道大学大学院理学研究科教授 |
| 平成13年12月 |
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中国東南大学客員教授 |
| 平成18年4月 |
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北海道大学大学院理学研究院教授 |
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獣医学研究科 石 塚 真由美 准教授
通常,脂溶性の高い化学物質は,環境から消えた後も,世代を経て生態系で保存されています。同氏は,環境汚染物質を代謝するシトクロムP450をバイオマーカーとして,環境汚染の簡便なスクリーニングが可能であることを報告してきました。また,同氏は,野生ドブネズミをモデルにして蓄積する環境汚染物質の分析を行い,焼却施設近郊だけではなく,都市部などに棲息している個体でも,ダイオキシン類やジフェニルエーテルなど,新興の化学物質を高濃度に蓄積していることを報告しました。この研究の過程では,棲息環境の汚染状況が野生動物の生体にどのような影響を引き起こすのか,環境毒性学をゲノミックスの視点から解析し,新規マーカーの検索に取り組んでいます。
野生動物における個体間のP450の発現レベルの違いは,汚染物質への曝露による一過性な酵素変動だけではなく,P450の「多型」が野生動物にも存在することも明らかにしました。最近では,野生のクマネズミにおいて,殺鼠剤の代謝に高活性のP450代謝酵素系をもつクマネズミが出現し,殺鼠剤の抵抗性の獲得の一因となることを報告しました。これは高い毒性を持つ環境化学物質に曝露された野生クマネズミの生存のための環境適応と考えられます。
このように,同氏は,実際にフィールドにおいて幅広い生物層の野生動物を捕獲し,棲息環境の汚染状況や野生動物に蓄積する環境汚染物質の分析と共に,野生動物に現れる生体影響とそのリスクについて解析を行ってきました。野生動物を用いた同氏の研究成果は,野生動物のP450の基礎を築く先駆的な研究であり,環境毒性学分野において一つのブレイクスルーになることが期待されています。
| (略歴) |
| 平成6年3月 |
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北海道大学獣医学部獣医学科卒業 |
| 平成10年3月 |
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北海道大学大学院獣医学研究科博士課程修了
獣医学博士(北海道大学) |
| 平成12年10月 |
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北海道大学大学院獣医学研究科助手 |
| 平成16年4月 |
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北海道大学大学院獣医学研究科助教授(平成19年4月同准教授) |
(獣医学研究科・獣医学部)
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農学研究院 高 野 順 平 助教
ホウ素は植物の生育に必要な必須栄養元素の一つで,ホウ素欠乏は作物生産を抑制する農業上の重大な問題点となっています。これまでにホウ素は植物において細胞壁の構造維持に寄与することが明らかにされていましたが,植物がどのようにホウ素を吸収し,その体内で移行させているかについては分子レベルではほとんどわかっていませんでした。
同氏と東京大学藤原徹准教授らは,モデル植物であるシロイヌナズナを用いて,生物界で初めてホウ素輸送体を同定しました。また複数のホウ素輸送体が植物のホウ素欠乏環境への適応に重要であることを明らかにしました。同氏らはさらに,ホウ素輸送体の過剰発現によりホウ素欠乏耐性シロイヌナズナの作出に成功しました。本研究成果は,世界中に分布するホウ素欠乏土壌での作物収量増加につながるものと期待されます。
同氏は平成20年11月に北海道大学大学院農学研究院に着任し,植物細胞がホウ素濃度を感知し,ホウ素輸送体を細胞内の適切な膜領域に配置させるしくみについて精力的に研究されています
(http://arabi4.agr.hokudai.ac.jp/Arabi.html)。今後も植物栄養学,植物細胞生物学の分野で先駆的な研究成果を挙げられることが期待されます。
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| (略歴) |
| 平成11年3月 |
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東京大学農学部応用生命科学課程 応用生物化学専修卒業 |
| 平成13年3月 |
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東京大学農学生命科学研究科応用生命化学専攻修士課程修了 |
| 平成14年4月 |
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ドイツ University of Hohenheim,
Institute of Plant Nutrition, Guest Student |
| 平成15年9月 |
| 平成16年3月 |
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東京大学農学生命科学研究科応用生命化学専攻博士課程修了
博士(農学)
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| 平成16年4月 |
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東京大学生物生産工学研究センター 日本学術振興会特別研究員(PD) |
| 平成19年8月 |
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米国 University of Wisconsin-Madison,
Fellow of Human Frontier Science Program. |
| 平成20年11月 |
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北海道大学 大学院農学研究院助教 |
(農学院・農学研究院・農学部)
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