訃報

名誉教授 たか    とおる 氏(享年80歳)

名誉教授 木 徹(たかぎ とおる) 氏(享年80歳)  名誉教授 木徹氏は平成21年4月10日,80歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和3年4月27日,愛知県名古屋市に生まれ,昭和26年3月名古屋大学工学部応用化学科を卒業し,同学科応用化学第2講座油脂化学研究室で大学院特別研究生前後期5年を修了後,同研究室で研究に従事,その後昭和34年2月名古屋大学工学部助手に採用,同38年12月講師,同43年3月助教授に昇任,同50年4月北海道大学水産学部教授に昇任し,水産学部水産化学科魚油化学講座を担当し,平成4年3月31日停年により退職しました。同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 この間,同人は永年にわたって教育と研究に携わり,多数の学生を薫陶すると共に,魚油化学講座の研究体制の確立と整備充実にご尽力されました。研究面においては,油脂化学,脂質化学,有機化学の分野において広範な研究に従事し,幾多の業績を残しており,主なものを大別すると次の2課題があげられます。
1. 同人は昭和34年よりガスクロマトグラフィーの導入による脂肪酸成分分析に携わり,水産生物油について研究されました。昭和36年よりカナダ国立研究所,テキサス州立農工大学で各1年間ガスクロマトグラフィーによる脂質成分の新分析法の開発,その組成,構造,分析,生化学分野への応用の研究を,さらに昭和53年にはカナダ水産海洋省ハリファックス研究所で7ヶ月間新高分解能ガスクロマトグラフィーによる生物脂質分析の研究を行われました。帰国後,これらの得られた新技術を改良し,国内大学研究所での水産油脂分析への普及,食用・非食用油脂製品分析規格の設定に貢献されました。この技術を用いて,ウニなど海洋無脊椎動物,海藻,裸子植物種子の脂質より多種類の特異構造脂肪酸を発見分離し,その分子構造を決定し,組成を明らかにされました。この功績によって,昭和63年3月には日本油化学協会賞・論文賞を受賞されました。
2. 同人の研究の中で最も注目されるのは1985年以降の脂質光学異性体のクロマトグラフィーによる分離の研究であります。タンパク質,炭水化物,テルペンなど多くの生体構成成分の光学異性体の分離は詳細に研究されているが,脂質については従来ほとんど研究例がありませんでした。同人は光学不活性なグリセロールと脂肪酸の結合によって生成する光学活性な脂質の分離を初めて報告し,分離条件を詳細に検討するとともに,この方法の魚油成分を含むトリアシルグリセロールの立体構造の決定への応用を発表されました。
 同人は国内のみならず,外国学会においても講師として多数回にわたり講演し,さらに研究者,技術者の指導にあたり,またカナダ,アメリカ,ソ連などより研究者をたびたび研究室に招聘して国際学術交流を積極的に推進されました。同人は,日本化学会,日本農芸化学会,日本水産学会,有機合成協会,アメリカ油脂化学会,クロマトグラフィー科学会などの学会の会員として,研究発表会参加,学会誌投稿,講演を行うなど活発に研究活動を展開されました。さらに,日本油化学協会には,昭和26年日本油化学協会の創立とともに加入し,以後企画委員,学会賞選考委員,編集委員,国際学会委員などを歴任し,長年にわたり学会活動にご尽力されました。昭和47年度同会功労者として表彰を受け,昭和56年〜57年度は同会理事,平成8年度副会長,平成9年〜10年度は会長を務め,学会運営に貢献されました。平成19年にはアメリカ油脂化学会よりフェローの称号が授与されました。
 以上のように,同人は長年にわたり大学において教育,研究に携わり,多くの人材を育成するとともに,専門である研究分野では脂質とくに海洋脂質より多数の特異構造脂肪酸を発見,構造決定し,またグリセロ脂質の光学異性体の分離を可能にするなど,わが国のみならず世界の学術,技術の発展に貢献されました。
 ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(水産科学院・水産科学研究院・水産学部)


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