訃報

名誉教授 小暮 得雄(こぐれ とくお) 氏(享年77歳)

名誉教授 小暮 得雄(こぐれ とくお) 氏(享年77歳)

 名誉教授 小暮得雄氏は,平成21年11月15日午後9時30分,肺炎のために満76歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和7年12月17日に東京都に生まれ,昭和30年3月に東京大学法学部公法コースを卒業後,同大学大学院に進学して団藤重光博士に師事され,刑法学を専攻されました。昭和32年3月に同大学大学院社会科学研究科民刑事法専門課程修士課程を修了(法学修士号取得),昭和36年7月同博士課程を修了(法学博士号取得)後,昭和36年8月に北海道大学法学部助教授に就任されました。2年間のドイツ留学(文部省在外研究員)を経て帰国後の昭和43年4月,同教授に昇任し,昭和49年12月から昭和51年12月まで北海道大学法学部長,評議員,法学研究科長の要職に就かれ,平成6年4月1日をもって千葉大学法経学部教授に転出されるまで,刑事法学の教育・研究に努められ,平成6年4月に北海道大学名誉教授になられました。
 その後,同氏は平成6年4月1日から平成10年3月31日までの間,千葉大学法経学部教授として,また平成10年4月1日から平成16年3月31日までの間,平成国際大学法学部法政学科教授として教育・研究活動を継続され,平成16年4月に平成国際大学名誉教授になられました。この間,平成9年から平成13年までは,司法試験(第2次試験)考査委員も務められました。
 北海道大学において,同氏は,刑法講座及び昭和52年の法学部改組後は刑事法講座に所属され,専門教育課程の刑法第1部,第2部の講義と演習,一般教育課程の講義・演習等を長期にわたってご担当になり,法学部及び教養部における法学教育の充実・発展に努められました。また,その深い刑事法学の学識と円満な人格をもって大学院法学研究科での教育と研究指導にあたり,一門からは,多くの優れた研究者を輩出されました。千葉大学及び平成国際大学においても主として刑法総論の講義および演習を担当され,両大学における法学教育に多大の貢献をされました。
 同氏の研究テーマは刑法学全般に及びますが,多くの研究業績のうち特に重要なものとしては,「罪刑法定主義の現代的展開」という問題領域の開拓,すなわち,罪刑法定主義の今日的意義を明らかにすべく,刑の権衡論,判例の法源的効力,あるいは犯罪論体系との関係など,これまで未開拓の分野を発掘し,展開されたことが挙げられます。また,生命倫理問題に関する刑法的考察,違法性論ないし法益論,さらには刑法改正問題ないし被害者保護の分野においても,優れた研究業績を残されました。とりわけ1990年に発表された論文「脳死と心臓移植−生命倫理問題の一考察」は,脳死を「人の死」とすることなく心臓移植を適法化することが可能であるという見解を主張して注目を集め,わが国の臓器移植法の成立過程において提出された法案の1つにも多大の影響を与えました。
 さらに,北海道新聞コラム欄「魚眼図」執筆同人として20数年来にわたり250余篇にのぼる「法エッセイ」を執筆掲載し,多くの読者を魅了されたこと,北海道自然保護協会会長として自然保護活動に精力的に取り組まれたこと,放送大学客員教授として「法と裁判」関連の教育ならびにテキスト執筆に従事されたこと等は,専門知識を生かして地域社会教育・生涯教育に尽くした同氏ならではの業績として特筆すべきものです。また同氏は,長年にわたり法務省札幌刑務所及び千葉刑務所の篤志面接委員を務められ,受刑者の社会復帰の手助けをされましたが,その際,1956年度全日本アマ名人戦決勝戦にまで進まれた将棋の才能を生かして,受刑者に対して詰将棋を指導するというユニークな篤志面接の方法を考案されました。
 北海道大学在職中は,在外研究員候補者選考委員会委員長,学生部第一小委員会委員長など学部内外の諸委員を務めたほか,昭和49年12月から昭和51年12月までの法学部長,大学院法学研究科長在任中は,大学紛争後の学部再建に尽力され,とりわけ学部改組の継承とその発展充実のために大いに貢献されました。また,評議員として全学の管理運営に参画し,特に北海道大学開基百周年記念事業実施の際は,式典副委員長として重責を果たされました。
 同氏は,所属されていた日本刑法学会では,昭和51年から理事として参画し,2回にわたって札幌市で開催された日本刑法学会(昭和49年度,平成元年度)の組織・運営の重責を果たされました。また,昭和56年1月から昭和60年7月まで,日本学術会議第二部会員として,改革の激動期に北海道地方区の世話人を務め,昭和60年から平成6年10月まで,日本学術会議刑事法学研究連絡委員会委員として,日本学術会議と日本刑法学会との橋渡しを務められました。さらに同氏は,平成2年から平成6年10月まで日独法学会理事として,平成6年から平成9年10月まで同会幹事として参画し,同会の運営に指導的役割を果たし,わが国の法律学の分野における国際的な学術交流の発展に寄与されました。
 以上のように,同氏は,北海道大学を中心とする43年間にわたる大学教員としての活動により,専攻する刑事法学の分野における教育・研究はもとより,広く学界ならびに社会における学問的営為の普及と発展に尽くされました。
 ここに謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(法学研究科・法学部)


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