部局ニュース

第7回脳科学研究教育センター・シンポジウム
「脳の個性を科学する:遺伝子と環境がつくる脳の力」

 12月8日(火),9日(水)の両日,第7回脳科学研究教育センター・シンポジウム「脳の個性を科学する:遺伝子と環境がつくる脳の力」(世話人代表:医学研究科 教授 本間さと)が本学学術交流会館で開催され,研究者や学生に一般市民も含め,延べ212人の参加を得,成功裏に終了しました。
 北海道大学脳科学研究教育センターは,文部科学省「萌芽・融合研究開発プログラム」の予算措置を受け,文理融合型研究教育拠点として平成15年に設置され,本学の12部局に所属する30名を超える基幹教員を中心に融合的脳科学研究を推進するとともに,部局横断型のバーチャル専攻科「発達脳科学専攻」において,修士及び博士課程大学院生への系統的な脳科学教育プログラムを提供しています。本年で7回目を迎えたセンター・シンポジウムは,毎年テーマを決め,センター履修生の教育に資すると共に,学内外に脳科学研究の最前線を示す機会となっています。本年度のシンポジウムは,特に,昨年6月に文部科学大臣の諮問に答えた「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について」が答申されたことを受け,この中で特に重点的に推進すべき課題と挙げられた「心身の健康維持のための脳科学」を主要テーマとして行われました。このため,総長室重点配分経費「全国規模研究集会等の開催支援経費」の支援を受け,第一線で活躍中の研究者を全国から招待し,センター基幹教員を交えて,脳機能の遺伝子プログラムと環境による修飾や,ストレス社会における精神神経の健康維持に関して,発達期から老年期までヒトの生涯を視野に入れたプログラムを企画しました。また,我が国における脳科学研究の指導的立場にある,日本学術会議会長の金澤一郎先生をお招きし,特別講演が行われました。
 8日は,佐伯総長の挨拶に続き,本間研一センター長による脳科学研究教育センターの過去7年の歩みと,脳科学研究の現状,今後のセンターの方針についての基調報告がありました。引き続き「脳とエピジェネティク」「行動異常の分子基盤」の2つのシンポジウムが行われ,発達期の環境要因や母子関係,様々な行動障害を引き起こす分子メカニズムと環境要因の最新研究成果が発表され,遺伝子障害による「ストーカーマウス」,「子育て放棄マウス」などのムービーも示され,社会的要請の高い課題への脳科学からアプローチが示されました。18時からの金澤先生の特別講演「脳科学と社会」では,我が国の脳科学研究の推進発展の歴史に始まり,クイズ形式で巷にはびこる疑似科学と,エビデンスに基づくサイエンスとしての脳科学との差異を示すなど,脳科学を身近に感じる講演が行われました。一般市民からのユニークな質疑も加わり,満席の聴衆は脳科学に関する様々な誤解を改め,知識を新たにしました。
 9日には「脳の個体差と環境要因」「脳科学の新展開」の2つのシンポジウムが行われました。我が国は11年間連続で3万人を越す年間自殺者数(交通事故死の実に6倍)を記録し,また,最近の統計では,国民の4人に1人は睡眠不足を感じ,働き盛りの6割が日常的にストレスを感じています。これらのシンポジウムでは,現代社会に蔓延するストレス・不眠,うつや生活習慣病を引き起こす脳のメカニズムと,これらの解明のための先端技術開発の成果が発表されました。
 現在,脳科学は,生命科学領域にとどまらず,情報科学・工学,社会科学や人文科学など広汎な領域にまたがる真の総合科学となっています。脳科学に対する社会的期待も益々高まっており,活力ある人生の創造に資することが求められています。身体の諸機能を統合して生涯にわたる心身の健康を支える脳の機能について,研究者間の情報交換と,学生のみならず一般市民への教育の目的も果たした本シンポジウムの成果を,今後のセンターの発展につなげたいです。
 
佐伯総長の挨拶 特別講演をされる金澤一郎先生
佐伯総長の挨拶 特別講演をされる金澤一郎先生
岡田理事・副学長(前列左から4人目)も加わり,講演者・主催者一同
岡田理事・副学長(前列左から4人目)も加わり,
講演者・主催者一同
 
(脳科学研究教育センター)
 

前のページへ 目次へ 次のページへ