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名誉教授 木下俊郎氏は,平成22年4月13日午前9時50分,腎不全のため79歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,昭和6年2月6日札幌市に生まれ,同28年3月北海道大学農学部農学科を卒業し,同年4月北海道大学農学部助手に採用されました。その後,助教授を経て,昭和56年4月教授に昇任され,農学科作物育種学講座担当となられ,平成4年4月には農学部改組に伴い,新設の応用生命科学科の植物育種学講座を担当されました。平成6年3月に停年退職され,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。退職後の平成6年4月から同13年3月までは,光塩学園女子短期大学教授を勤められました。
この間,同氏は永年に亘って,植物育種学の教育・研究に努められ,特に稲育種の基礎となる遺伝学的研究,高等植物における細胞質と核の相互作用の解析及び作物育種への応用の研究などに従事し,数多くの顕著な成果を挙げられると共に,幾多の優秀な人材を世に送り出されました。てん菜においては世界に先駆けてガンマー線照射により,細胞質突然変異の人為誘発に成功され,新たな雄性不稔細胞異質を作出し,三倍体一代雑種品種の効率的な作成方法の確立に貢献されました。これら一連の研究により,昭和52年4月には日本育種学会賞,平成3年2月には北海道科学技術賞を受賞されました。さらに,作物育種学へ分子遺伝学や細胞工学の手法を積極的に導入し,てん菜及び稲のミトコンドリアゲノムに関する知見を雄性不稔の育種的利用への応用,小麦では近縁野生種から由来した細胞質と小麦核ゲノムの相互作用による新しい生態型の小麦品種育成に関する研究等が高く評価され,平成5年6月には「高等植物における細胞質と核の相互作用の解析および作物育種への応用」により日本学士院賞を受賞されました。イネの遺伝学的研究についても,精力的に進められ,長尾・高橋(1941)によって第一報が報告された「稲の交雑に関する研究」については,報告数を重ね,木下・高橋(1991)の共著で第百報を発表されました。
昭和51年からは木原均博士を援けて小麦のN・Cヘテロシス(核と細胞質の雑種強勢)の研究を始め,日本学術振興会による日米科学協力事業に参画され,昭和61年から2年間は,研究代表者として米国ワシントン州立大学との共同研究を行われ,研究成果を総括して平成3年7月に北海道大学において,小麦種の細胞質遺伝工学に関する国際シンポジウムを主催されました。また,昭和59年から6年間,国際原子力機構による「穀類における人為突然変異の利用」の共同研究に参画し,海外でのワークショップで研究成果を発表されました。その外,昭和60年5月フィリピンの国際稲研究所において稲遺伝学協議会の設立に参画し,昭和60年から平成7年まで稲遺伝子記号命名及び連鎖群委員会の委員長として,遺伝子記号の標準化と染色体番号の統一及び連鎖地図の整備を推進され,平成7年から同12年までは同協議会の会長としてイネ遺伝学の発展に貢献されました。
学内においては,昭和60年5月から同62年4月まで新設の北海道大学遺伝子実験施設の運営委員を務め,さらに同60年4月から平成2年3月までは北海道大学入学者選抜制度調査委員会委員長を務め,大学入試方法,特に分離・分割方式の円滑な導入や入試制度の改善に尽力され,北海道大学の運営・発展に寄与されました。
一方,学外においては,昭和57年2月から同59年1月,同63年2月から平成6年1月まで文部省学術審議会専門委員,昭和61年10月から同62年3月,同63年4月から同63年6月まで「新テスト」に関する調査検討委員会委員,平成元年4月から同7年3月まで大学入試センター実施方法専門委員会委員,平成2年4月から同3年3月,同4年4月から同6年3月まで国立遺伝学研究所系統保存委員会委員,同2年6月から同4年3月,同4年12月から同6年3月まで文部省農学視学委員,さらに,昭和62年7月から平成3年7月まで農林水産省甘味資源審議会委員を歴任し,関連分野の発展に寄与されました。また,昭和59年10月から平成5年3月まで北海道農業振興審議会委員,同農産部会長,昭和64年1月から平成11年3月まで北海道種苗審議会委員,平成7年2月から同11年3月まで同会長として北海道農業の振興に貢献するとともに斯界の発展に尽力されました。
学会活動においては,永年日本育種学会幹事として学会の発展に尽力され,昭和62年1月から平成5年12月まで日本育種学会北海道談話会会長を歴任されました。また,平成3年7月から同9年7月まで日本学術会議会員,同会議育種学研究連絡委員会委員長として学術の交流や進歩に貢献されました。優れた研究成果とその功績が評価され,平成16年には日本育種学会名誉会員に推挙されました。
以上のように同氏は,植物育種学の教育者・研究者として優れた業績をあげ,学術の発展,後進の啓発と斯界の発展に多大な貢献をなされました。これら一連の功績により,平成14年4月には勲三等旭日中綬章が授与されました。
ここに謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
(農学院・農学研究院・農学部)
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