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本講座は,「パラタクソノミスト(準分類学者)」を養成することを目的としており,平成16年度より113の講座が開講されてきました。パラタクソノミストとは,学術標本やサンプルを正しく同定し,整理する能力を有し,環境調査・教育において必要とされる人材です。平成20年度の後半からは北海道教育GP「博物館を舞台とした体験型全人教育の推進」のもとで開催しており,本年7月から9月にかけては下記の7講座を開催しました。 |
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1.海藻パラタクソノミスト養成講座(初級) |
7月31日(土)に,北方生物圏フィールド科学センターの四ツ倉典滋准教授と当館の阿部剛史助教が講師を務め,忍路臨界実験所(小樽市)で開催されました。午前は,海中の環境,海藻の色の違い(緑藻・紅藻・褐藻)と多様性,環境変化が与える海藻への影響などについての講義の後,胴長などに着替え,スクレーパーや海藻を入れる洗濯ネットなどの採集道具を持って実際に海に入り,忍路湾を歩きながら海藻を採集しました。
午後からは,海藻を分類・同定する方法や標本の作り方についての説明を受け,午前中に採集した海藻の押し葉標本を作製しました。また,本格的な同定作業の練習課題として用意されたソゾ(紅藻),コンブ(褐藻),アオノリ(緑藻)の特徴の説明を受け,アオノリの断面構造の顕微鏡観察を行いました。 |
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採集した海藻について説明する四ツ倉講師と受講者 |
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2.魚類パラタクソノミスト養成講座(中級) |
8月4日(水)と5日(木)の両日,水産科学研究院の矢部衞教授,今村央准教授,当館の河合俊郎助教が講師を務め,水産学部(函館市)において開催されました。1日目は,まず,深海魚についての講義や,魚類の同定方法,初日に扱うハダカイワシ科,およびソトオリイワシ科についての講義を受け,その後,用意された魚類標本を選び,顕微鏡などを用いて詳細な観察を行い,種の同定と計数・計測を行い,準備されたデータシートに記入していきました。
2日目の午前は,ワニトカゲギス目魚類についての講義を受け,前日と同様に,ワニトカゲギス目魚類の同定と計数・計測を行いました。午後からは,アンコウ目魚類に取り組みました。アンコウ目についての講義の後,受講者各自で標本を選び,種の同定や,計数・計測を行いました。途中,深海での魚類の姿を収めた動画の視聴や,多数の寄生雄の付着した大型のミツクリエナガチョウチンアンコウの標本の観察などを行いました。 |
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深海魚の同定について講義する河合講師 |
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3.海鳥パラタクソノミスト養成講座(初級) |
8月9日(月)と10日(火)の両日,水産科学研究院の綿貫豊准教授が講師を務め,水産学部(函館市)において開催されました。1日目の午前は,まず,海鳥の分類や行動,形態の差異などについて講義が行われ,次に参加者2人1組につき1個体の標本が割り当てられ,標本の種同定と各部位の計測を行いました。午後からは,解剖の手順,切ってはいけない部位や観察すべきポイントなどが説明され後,腹部を切開し,皮下脂肪ランクや腹腔内脂肪ランクの確認,胸筋や各組織の重量測定,生殖腺による雌雄判定,後胃の内容物の確認などを行い,剥製作成の前段階までの処理を行いました。
2日目は,まず,メス,ピンセット,はさみ,金ブラシを駆使して皮についた脂肪や頭蓋の中身を除去する作業を行いました。皮下脂肪をあらかた取り終えると,筆粉を用いて取りづらい脂肪を落とし,防腐剤としてホウ酸を満遍なくまぶして脂肪の除去作業を終えました。その後,骨に綿を巻き,体の中心部には体軸として割り箸を通した綿を詰めて,形を整え切開した腹部を縫合して仮剥製を完成させました。 |
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海鳥の解剖実習に取り組む受講者 |
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4.昆虫パラタクソノミスト養成講座(中級:コウチュウ目) |
8月28日(土)と29日(日)の両日,当館の大原昌宏准教授と大阪府箕面公園昆虫館の澤田義弘氏を講師に迎え,北大総合博物館において開催されました。1日目の午前は,まず,昆虫の上科,科の写真,スケッチの掲載された図版を見ながら,8割のコウチュウを科まで分類する同定方法についての説明を受けた後,国内外のコウチュウの未整理標本の同定に取り組みました。午後も,引き続き,同定作業を進めました。途中,8割から9割のコウチュウを科まで分類する同定方法についての説明があり,触覚の形などの特徴的な形質に関する説明や,形態的に類似した科(ジョウカイボンとジョウカイモドキなど)識別方法に関する説明や,分類に重要だが観察が難しい形質(前胸側板など)に関する説明も受けました。
2日目も,前日に続き,同定作業を行ないました。途中,形態的に類似した科の識別法に関する説明を受けました。午後からは,9割から9割5分までのコウチュウを科まで分類する同定方法についての説明と,その際に使用する検索表の有効性と使い方に関する説明を受け,さらに同定作業を続けました。最後に,9割5分から10割のコウチュウを科まで同定する同定方法についての説明があり,専門家に同意依頼する方法や,インターネットを利用して画像を公開し,全世界に同定を依頼する方法に関しての説明を受けました。 |
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コウチュウ目昆虫の同定に取り組む受講者 |
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5.ザリガニパラタクソノミスト養成講座(初級) |
9月4日(土)と5日(日)の両日,稚内水産試験場の川井唯史氏を講師に迎え,円山動物園(札幌市)および北海道子どもの国(砂川市)において開催されました。1日目は,円山動物園に集合し,まず,「円山の森」での散策と,ザリガニのビオトープおよび「ザリガニ飼育小屋」の見学を行ないました。その後,日本国内のザリガニ類についての生物学的な概要,生息地の環境に関しての講義を受け,ニホンザリガニとアメリカザリガニを観察しました。
2日目は,北海道子どもの国において実施され,午前は,まず,アメリカザリガニを採集するため,園内の「ため池」に籠を仕掛け,その後,近郊の「小川」でニホンザリガニの採集を行ない,採集方法,同定方法,雌雄の見分け方,採集したサンプルの計測方法,データシートの記載方法などを学びました。午後からは,午前に仕掛けたアメリカザリガニの籠を回収し,その後,基本的なザリガニの標本の作製方法について講習を行いました。 |
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ザリガニの計測方法について説明する
川井講師と受講者 |
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6.きのこパラタクソノミスト養成講座(初級) |
9月11日(土)に,当館資料部研究員の小林孝人氏が講師を務め,北大総合博物館において開催されました。まず,「担子菌・子のう菌の違い」,「きのことは?菌類とは?」,「5界説,原生生物」,「アセタケについて」,「標本庫について」,「地衣類について」,「マツタケの研究」,「きのこの断面の作り方」,「コレクションのアセタケ属菌」などの講義を受けました。休憩の後,菌類標本庫(SAPA)を見学し,午後の実習に用いられる記載シートに関する説明を受けました。
午後は,まず,北大キャンパス内で採集を行ないました。採集後,博物館に戻り,「記載シートを用いた形質記載」,「きのこの顕微鏡を用いた観察法」,「記載シートに用いられる用語」についての説明を受け,各自が採集したきのこの顕微鏡観察,記載シートへの記入,同定,標本ラベル記入といった実習を行いました。 |
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キャンパス内でキノコを採集する受講者 |
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7.岩石パラタクソノミスト養成講座(中級) |
9月18日(土)と19日(日)の両日,当館資料部研究員の在田一則氏が講師を務め,総合博物館において開催されました。まず,午前中は,初級の復習を兼ねて,岩石の生成場を理解する上で欠かせないプレートテクトニクスの概念や岩石の成因についての講義を受けました。午後は,肉眼で岩石を観察し,複数の岩石の鑑定に取り組みました。その後,岩石の薄片を観察するための特殊な顕微鏡,偏光顕微鏡をひとりひとつずつ使い,使い方や偏光顕微鏡の仕組みについての講義が行われました。
2日目は,1日目に引き続いて,偏光顕微鏡で岩石の薄片の観察を行いました。先生から鉱物の特徴や見分け方を聞きながら,実際に観察してもらいました。ひととおり鉱物の説明を受けた後,岩石の顕微鏡下での特徴の解説を受けました。午後は,名前を伏せた岩石の薄片を観察してもらい,含まれている鉱物や岩石名を鑑定しました。その後,好きな薄片を1枚選び,顕微鏡下でのスケッチをしました。スケッチを通して,鉱物の形や色などの特徴を把握しました。 |
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岩石の鑑定に取り組む受講者 |
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(総合博物館) |