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文学研究科FD研修会「コミュニケーション支える学生と
教師のいい関係−アサーションを手がかりに−」

 7月20日(水),文学研究科ではひと味違うFD研修を行いました。それは教員と学生が参加し,コミュニケーションについて学ぶというものです。講師は元日本女子大学教授,現在は東京の統合的心理療法研究所(IPI)の所長でいらっしゃる臨床心理士,平木典子先生です。家族療法,アサーション・トレーニングの第一人者です。演習も含む,2時間半のご講義をいただきました。

 講義の内容を以下にまとめます。
 アサーション(assertion)を辞書で引くと「主張」「断言」という意味になりますが,ここでのアサーションとは,1970年代頃より臨床心理学で用いられるようになったコミュニケーションのあり方のこと。「自分も他者も尊重した自己表現」であり,「ものの見方,価値観は人それぞれ」を前提とするコミュニケーションの様式のことだそうです。アサーティブであるというのは,「自分の気持ち,考え」を言いっぱなしにする,あるいは押し付けるのではなく,相手が自分とは異なる気持ち,意見をもっていることを認め,相手が拒否することも想定内とするコミュニケーションのスタイルとのことでした。
 自己表現のあり方には[1]非主張的(non-assertive),すなわち言いたいことを言わない,言えないタイプ(その結果,怒りがたまって爆発したり,忍耐のあまりウツになってしまう),[2]攻撃的(aggressive),すなわち自分の言い分を通し,相手の言い分を聞かないタイプ(その結果,一時的には満足できても後味が悪かったり,相手から敬遠されてしまう),[3]アサーティブ(assertive),すなわち率直に自分の気持ちや考えを伝え,相手の表現をも受け止めることができるタイプに分けられます。日本人は7割が[1]のタイプに当てはまるそうです。一方で,指導・監督する立場にある教員は,知らず知らずのうちに[2]のコミュニケーションを行いがちだということでした。[1]も[2]も不満や葛藤が生じる原因となります。教員と学生双方が[3]を目指すことは,パワハラやディスコミュニケーションのない,より良い関係性を築くことにつながるというお話でした。

 具体例を一つ示します。コピー機を占有して,長々とコピーをとっている人がいます。このような時には我慢するのではなく,「この資料を次の授業で使いたいのです」と言ってみる。相手が返事をしなかったなら「無視された」と思うのではなく「聞こえないのかもしれない」と中立的に考え,もう少し声を大きくして同じことを言ってみる。ただし,すぐに番を代わってもらえるとは考えない。相手にも「私だって次の授業で使うのです」という権利があることを認めつつ,自分の気持ちも伝えてみるところに,違う立場,考え,感じ方の者同士のコミュニケーションの出発点があります。それはまた,自分を大切にしてよい権利(自己の尊厳を守る権利),思ったことを伝えてよい権利(自己表現の権利),違う感じ・考えを持ってもよい権利(他者と違う権利),失敗をしてもよい権利(ヒューマンエラーの権利)を支える,いわば人権を支えるコミュニケーションでもある,ということでした。
 「私だけが厳しく批判される」「忙しいのに話がなかなか終わらない」「行きたくないのにまた誘われた」…いろいろな状況で,いかに怒らず素直に自分の気持ちを伝えるか。教員にとっても学生にとっても,Noを言うところから始まるコミュニケーションがあるのだと強く感じた2時間半でした。

講演の様子 演習に取り組む参加者
講演の様子 演習に取り組む参加者

(文学研究科・文学部)


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