訃報

名誉教授  まさ とみろう 氏 (享年87歳)

名誉教授 正置(まさき) 富太郎(とみたろう) 氏

 名誉教授 正置富太郎氏は,デンマーク・コペンハーゲンにおいて平成23年7月10日に87歳で御逝去されました。ここに生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正12年9月15日北海道に生まれ,昭和22年9月北海道帝国大学農学部水産学科を卒業され,同年10月北海道大学農学部文部教官(助手)に採用されました。その後,昭和28年4月水産学部に配置換となり,昭和30年3月同講師,昭和34年10月同助教授,昭和42年5月同教授に昇任されました。昭和62年3月停年により退職,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 この40年間,同氏は海藻の研究と教育に従事され,特に紅藻無節サンゴモ類の分類,分布,生態に関する研究で顕著な業績をあげられました。分類学的研究では日本各地の海域より採取した膨大な標本について形態学的観点から多くの成果をおさめられ,さらにノルウェー,フランス,アメリカ等の研究機関において基準標本をもとに詳細な比較検討を行いました。これらの研究により,当時日本ではほとんど不明であった多数の種を確定するとともに多くの新種を発見し,このグループの海藻の分類体系を確立されました。日本ではたいへん遅れていたこの分野の研究を世界的な水準にまで引き上げました。また,生態学的研究では,寒流と暖流の影響を受ける北海道沿岸における海藻の分布・生育状況と種の構成を詳細に調査し,植物地理学的に多大な業績を残されました。これらの業績はその後の無節サンゴモに関する研究規範とされています。日本では古来より水産上の大問題である「磯焼け」がサンゴモ類と関連して注目され,不明な点が多く詳細な解明が求められていた現象であるため,研究成果は特に無節サンゴモと磯焼け現象との関係を明らかにする上で重要な知見となり,磯焼け対策への基礎的資料となっています。
 学内においては,学部学生,大学院生,留学生の教育研究に注力され,幾多の有為な人材を育てられました。 昭和50年4月から同53年3月,さらに昭和59年4月から同62年3月まで水産学部附属臼尻水産実験所長としても施設の充実・発展,管理・運営に尽力され,地域に貢献する実験所の基礎を築かれました。
 学外においては,日本藻類学会の幹事,評議員,編集委員を務められ,創立間もない学会を支えられました。さらに,国際藻類学会では評議員として学会の発展に寄与され,日本の藻類学のレベルが高いことを世界に示されました。平成12年11月には教育研究等への御功績により勲三等旭日中綬章を受章されました。
 以上のように,同氏は長年にわたり北海道大学において教育研究に携わり,優れた業績をあげられ,専門分野を通して北海道大学の発展,国内外の学術振興,人材の育成に多大な貢献をされました。
 ここに謹んで正置博士の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(水産科学院・水産科学研究院・水産学部)


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