10月7日(日),大学文書館に,戸澤泰子氏と,ご子息の哲也氏,ご息女の純子氏が来館され,戸澤 鼎関係資料(回顧録直筆原稿1点,写真複製6点)をご寄贈くださいました。戸澤泰子氏は,戸澤 鼎のご令孫晴巳氏夫人です。
戸澤 鼎は,1861(文久元)年,蘭医の家に生まれました。1872(明治5)年7月から1873年6月まで,開拓使仮学校の仏学課(フランス語専攻)の官費生徒となり,仮学校仏学課廃止後,1878年4月まで開拓使官費生徒として東京外国語学校に在籍しました。その後,帝国大学法科大学(現在の東京大学法学部)を卒業し,第五高等学校(現在の熊本大学)教授,秋田尋常中学校長などを歴任した後,横浜正金銀行に入行しました。
開拓使仮学校は,北海道大学の最も古い前身校に当たります。1872年4月,開拓使が北海道「開拓」に資する人材を養成するために,東京芝の増上寺内に開設しました。1875年7月に札幌へ移転し,翌年,札幌農学校へと改編をします。開拓使仮学校は,欧米の制度や教授法を取り入れた,日本で最も早い時期の学校のひとつでした。しかし,カリキュラムや教師陣などの点で試行錯誤を繰り返し,学校経営は必ずしも安定しませんでした。学校としては所期の目的を充分に達することはできませんでしたが,様々な人材を輩出しました。
この度受贈した回顧録の中で,戸澤鼎は,開拓使仮学校や生徒の様子を詳しく記録しています。例えば,外出を許された最初の日曜日には,支給された小遣い25銭を懐にし,途中あちこちで菓子類を買い求め,衣服をふくらませて雀躍帰宅し,門限に遅れないよう学校に戻った様子を描写しています。開拓使仮学校,特にその生徒の状況を記した資料は非常に少なく,また,日本の学校の黎明期を知ることのできる資料としても,戸澤 鼎の回顧録はたいへん貴重なものです。
大学文書館では,受贈資料を大切に保管し,翻刻等により広く紹介してまいります。