経済学部では,札幌国税局長の江國清志氏による特別講演会を11月6日(水)午前10時30分より学術交流会館小講堂において開催しました。特別講演会のタイトルは「税務行政の現状と課題−国際課税等について−」で,税務行政が国際化という環境変化に対しどのように対応しているかについて講演していただきました。
講演者である江國氏は,国税庁に勤務し,国税庁の個人課税課長,課税総括課長を務めてきました。講演では,税務行政が国際化の中で対応を迫られている諸問題について述べました。まず,税務当局が課税を逃れようとする国際的租税回避に対してどのように取り組んでいるかを語りました。経済のグローバル化が進展する中で,多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用して租税を回避している状況を説明し,これに対して世界各国で国際的な協調体制が作られつつあることを述べました。また,移転価格税制を取り上げ,日本にある親会社が法人税率の低い国にある子会社に利益を移し,日本の法人税の負担を回避する問題を説明しました。さらに,最近の新しい動向として2つ挙げられ,1つは,国外に財産を保有する者はその明細を記載した国外財産調書の提出を求められるようになったこと,もう1つは,アメリカが日本の銀行にあるアメリカ人名義の口座の情報提供を求めてきたことを述べました。国際化時代の中で税務行政の新たな動向について熱心に語っていました。
講演会には170名という多数の出席者があり,経済学部の学生と大学院生ばかりでなく,他学部の学生や一般の方の参加もありました。当日,参加者にアンケートを配付したところ,参加者の多くから江國氏の講演が非常に有益であった旨の回答がありました。
時代に応じて税制は大きな変革を求められています。昔は当然と考えてきたことが今はそうではなくなり,新たな税の在り方が模索されています。税務行政においても,国際化を含めて新しい時代に対応するものでなければならず,絶えず新しいルールの構築を迫られています。このような状況の中で,申告納税が原則であるわが国において,税に対する国民の信頼を維持していくことが肝要であり,納税者が自発的に納税義務を履行していこうとする意識を高めていくような制度設計が必要になっています。国民が税に関心を持ち,税の理解を通して社会に参加し,納税を通して真剣に社会を支えていこうとする意識を持つことが重要です。このような講演会が,学生の皆さんに現実の問題に関心を抱かせ,真剣に社会の在り方を考えてもらう良い機会になることを期待します。