7月21日(火)に,第13回脳科学研究教育センターシンポジウム「脳機能へのアプローチ:解剖・生理・薬理・分子生物から」(世話人代表:薬学研究院 南 雅文教授)を医学部学友会館フラテホールで開催しました。脳科学研究教育センターには医学,薬学,理学,工学,保健科学,文学,教育学など学内13部局の約30名が基幹教員として参加しており,脳科学研究の推進と,大学院講義,実習,合宿研修などを柱とした教育活動を行っています(http://www.hokudai.ac.jp/recbs/)。また,毎年,学内外の脳科学研究者が参加するシンポジウムを開催しています。今回のシンポジウムは,解剖学,生理学,分子生物学の立場から脳の機能や病態の研究を進める第一線の研究者3名を招聘し,薬理学を専門とするセンター基幹教員1名を加え,計4名の研究者がそれぞれの学問分野の特徴を生かした脳機能へのアプローチについて講演を行いました。
吉岡充弘センター長(医学研究科)による挨拶とセンター紹介の後,講演を開始しました。佐藤 真教授(大阪大学大学院医学系研究科解剖学講座)による講演「脳発達とその破綻に学ぶ脳の機能基盤への新たなアプローチ」では,自閉症スペクトラムへの関連が示唆される分子を同定した研究成果に加え,神経細胞の形態に着目した解剖学ならではの視点からの脳機能へのアプローチが紹介されました。柚ア通介教授(慶應義塾大学医学部生理学)による講演「補体C1qファミリーによるシナプス制御機構−神経系と免疫・代謝系との接点?」では,自然免疫系で重要な役割を果たす補体ファミリーに属する分子が神経系においてシナプス形成・維持に重要な役割を果たしていることが示されるとともに,代謝系にも関与するという最近の知見も紹介され,補体ファミリー分子が,免疫系・代謝系・神経系を結ぶ新たな生体調節システムである可能性が議論されました。永井義隆室長(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所)による講演「神経変性疾患に対する蛋白質のミスフォールディング・凝集を標的とした治療戦略」では,様々な神経変性疾患に蛋白質ミスフォールディング・凝集が関与していることが示された後,分子遺伝学・分子生物学の手法によるショウジョウバエ,マウス,マーモセットなどの疾患動物モデルを駆使した病態解明と治療薬開発のための研究が紹介されました。南教授による講演「痛みによる負情動生成における分界条床核の役割」では,痛みが引き起こす嫌悪感や抑うつなどの負情動生成の神経機構に関する行動薬理学的な研究の成果が報告され,慢性疼痛とうつ病に共通する神経基盤について議論がなされました。最後に,渡辺雅彦副センター長(医学研究科)の挨拶があり活況のうちに閉会となりました。
当日は学内の各部局や学外の研究者・学生等,58名の参加があり,活発な質疑応答がなされました。今回のシンポジウムが参加者の皆様の興味を満たすとともに,学内外の研究の新しい展開につながっていくことを願っています。