只今ご紹介いただきました,昭和42年卒業,連合同窓会会長の石山です。
昨年もこの場所で感じたのですが,女性のきれいな着物姿が,針葉樹の山の中で桜が咲き誇っているように見え,まさに春が来たと言える情景で,見ているだけで心が浮き立つような感じがします。
本日はご卒業おめでとうございます。
今年は新たに2,524名の皆さんを私たち同窓生の仲間に迎え入れることができ,大変喜ばしく思います。ここには大学院に進む人も社会に出る人もおられますが,社会に出られる人は特に,これから始まる新しい人生に対して,期待と不安を持たれていることと思います。
私は皆さんに先立つこと49年前に北大を巣立って会社人生を送ってきました。社会人になって最初の頃は,自分の立ち位置は全く分からないもので,偉そうな人が大勢いるし,同期生も顔だけ見れば優秀そうだし,多くの社員の中の一人でしかないわけで,自分が会社に対してどのように役に立つのかも分からなく,大学を出てそろばんもできないのか等,冷やかされたりしていました。こんな時,あまり張り切っていると心身症になってしまいます。私はあまり真面目ではなかったので,同期の仲間と徒党を組みアイスホッケーのチームを作ったり,スキー場の斜面を借りてスキー大会を開いたりと,学生時代の延長線のように青春を発散させていました。そのうち色々な仕事を与えられるようになり,責任ある仕事を任せられるようになりました。そして自分の属している組織の目標も理解でき,それに対して自分が果たしていかなければならない役割や責任が明確になり,会社に馴染んでいくことができました。その後はオイルショックや,日本の企業がニューヨークのロックフェラーセンターを買収するようなバブル時代,あるいはその崩壊後の失われた20年と言われるデフレ時代のような社会の変化や会社の業容の変化に伴って,国内や海外の広い範囲の事業に従事してきました。
皆さんにしっかり覚えておいていただきたいことは,皆さんが大学で学んできた専門についてあまり拘らないでいただきたいということです。何故かというと企業が皆さんに期待するのは,これから何をしてくれるのかです。企業は皆さんの可能性に投資していくのです。どのような状況になろうとも企業はしっかり生き延びていくことが大切で,それを可能にしてくれるかどうかは,皆さんが立派な企業人として育っているかどうかです。よく言われるように,強い者が必ずしも生き延びるのではなく,変化に良く対応した者が生き延びるからです。
ここで,現在の世の中の激しい変化について少し述べさせていただきたいと思います。この10年ほどの間で,日本の経済に一番大きな変化をもたらしたのは円相場の変動です。2006年には1ドル120円まで安くなっていた円が2010年には80円台まで上がり,日本の輸出競争力は大変弱くなりました。2011年には東日本大震災が起き,日本の保険会社が保険金支払いのため海外資産を売って円を増やすだろうとのことで,75円台という戦後最高値まで上がりました。2011年にアベノミクスが打ち出され120円台まで安くなりましたが,最近また,世界経済のリスク警戒や原油価格の下落によって円高基調で動いています。日本の企業は売上や収益の50%ほどを海外の事業所で上げるようになっていますから,為替の変動は企業業績に大きな変動をもたらします。企業の置かれた状況も激しく変化しています。
たとえば世界の鉄鋼最大手にアルセロールミタルという会社がありますが,10年ほど前に世界の鉄鋼会社を買収して大変な勢いで大きな会社になりました。新日鉄も買収されてはたまらないということで,企業の買収防止策をあわてて作らざるを得なかったほどの会社です。しかし中国の安値輸出により2015年は9千億円の赤字を出して大変苦しんでいます。
皆さんもよくご存じの富士フィルムは,フィルムの世界でコダックを抜いて世界のトップ企業になりましたが,カメラのデジタルカメラ化により,今やメディカルサイエンス企業として,主力を薬品や化粧品に変え立派な業績を上げています。ビールや洋酒の世界でも,国内は胃袋の数が減少していきますから,酒造メーカーは各社共盛んに海外進出を行っています。
20年以上前になりますが,アメリカで最後まで残ったテレビ製造工場が閉鎖されたという記事を読んでこれは大変なことだなと思いましたが,皆さんもご存じのようにテレビはもう日本では殆ど作られていません。最近の大きな出来事では,あの液晶テレビで世界をリードしたシャープでも台湾の会社に買収されることになりました。電子産業全体で2000年には26兆円の売り上げのあったものが,2013年には11兆円まで減少しています。また,その他大きな変動要因としては,中国の海外膨張,北朝鮮の核装備,IS等の宗教的対立等,世界の平和を妨げるようなことが次々に起こっています。
私はこのような話をして,これから社会に出て行かれる皆さんの張り切っている気持ちを縮こまらせようと思っているわけではありません。私達は常にこのように大きく変動する世界の中で生きています。これが大学の外の世界の実態です。私達がこのような世界を切り拓き日本を輝かせていく力は,北大の4つの基本理念である「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」,これらをしっかり自分の中で養っていくことから生まれてくると思います。私にとってこの4つは企業人としても経営者としても大切な理念です。
話は変わりますが,今,同窓会は組織を変える作業に入っています。同窓会を校友会の形にして,現役学生,大学の関係者すべてを会員とした組織に生まれ変わろうと計画しています。これは大学の法人化に伴い,大学への同窓生からの支援活動が大変重要になっているからです。北大に関係のある人全てに北大校友会としての籍を持っていただき,言ってみれば国籍のようにし,大学の外では東京や関西,各学部の同窓会に,住民票のようにしてそこに登録し活動していただく。活動としては,学生の就職支援,会員の転職支援,国内・海外のインターンシップの受け入れ,新渡戸カレッジフェローの推薦,大学のホームカミングデーの共同開催や学外活動の支援,フロンティア基金への支援,変わったところでは東京同窓会の500人集まる新卒者歓迎ジンパがあります。このジンパは若い人達の企画運営で,会費は早割,彼女割引,彼氏割引,家族割引があり,会員の会費が一番高いというものです。これらは以前の同窓会と違って,若い人達に企画運営をしていただき,社会におけるリーダーシップをとる練習の機会にもなっています。会社の仕事は組織で動きますが,同窓会活動は全員がボランティアですので,これを組織化し運営できれば会社の組織を動かすのは簡単です。また,普段ではなかなかお目にかかれないような,企業のトップとして活躍中の先輩方とも大変フラットな関係を持つことができ,色々な相談にも乗っていただけます。一緒に肩を組んで「津軽の海」を歌えばそれでOKです。皆さんもぜひ校友会に参加し,積極的に活動していただきたいと考えます。
最後になりますが,皆さんがそれぞれの人生で明るく輝いていただくことを祈念して,私のご挨拶とさせていただきます。
ご卒業誠におめでとうございます。
これを持ちまして,私のお祝いの言葉とさせていただきます。