新入生の皆さん,北海道大学へのご入学おめでとうございます。
北海道大学の教職員を代表して,皆さんの入学を心より歓迎いたします。また,晴れの日を迎えた皆さんの,今日までの勉学と生活を支えてこられたご家族をはじめ,関係者の方々のお慶びもいかばかりでしょうか。ご家族,関係者の皆様には,引き続き,新入生の本学での成長を温かく見守り,励ましてくださいますよう,お願い申し上げます。
さて,今年の本学への入学者は2,606名で,そのうち男子学生が1,819名,女子学生は787名であります。また,入学者の中には,留学生38名,帰国子女12名が含まれています。この留学生の中には「現代日本学プログラム課程」の学生が19名含まれています。さらに,国内においては,道内出身者が935名,道外出身者が1,672名となっており,今年は道内出身者の比率が35.9%となりました。
このように,生まれた国や地域,育った環境も異なる皆さんが,この日本一美しいキャンパスを持つ北海道大学で学び,課外活動やボランティア活動などを通じ,お互いに競い,励まし合っていくことになります。この北海道大学で,ぜひ,生涯の友となるような多くの友人を作ってください。その友人こそが,皆さんのこれからの人生における大きな宝物となることでしょう。
さて,ここで北海道大学のこれまでの歴史を簡単に振り返りたいと思います。
本学は1876年,明治9年に設立の札幌農学校に始まり,東北帝国大学農科大学を経て,大正期に北海道帝国大学となりました。昭和に入り,太平洋戦争後に北海道大学となり,文系学部を含む総合大学へと成長し,2004年4月,現在の国立大学法人北海道大学となりました。また,大学の規模も,国立大学の中で最も多い12の学部を持ち,18の研究科・学院等を有する我が国の基幹総合大学となっています。この間,2010年にノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生のクロスカップリングの研究をはじめ,多くの優れた研究成果を生み出すとともに,社会に貢献する有為な人材を全世界に輩出してまいりました。
本学が国立大学法人となった際,本学の教育研究理念として「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」それに「実学の重視」の4つを掲げました。これは創立時の教頭であったウィリアム・S・クラーク博士以来,140年の歴史の中で醸成されてきた,本学の教育研究の基本姿勢をもとに決定したものであります。その意味で,北海道大学は,国立大学では珍しく,建学の精神・理念を持った大学であると言えるでしょう。
さらに,2014年には,これら4つの基本理念を踏まえた「北海道大学創基150年に向けた近未来戦略(北海道大学近未来戦略150)」を策定し,「世界の課題解決に貢献する北海道大学」を目指すべく,その目標を掲げています。そして,北海道大学は現在,この戦略を具体的に実行する施策として2014年度に採択されました,文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業トップ型の,「Hokkaidoユニバーサルキャンパス・イニシアチブ」構想によって,その目標の実現を図ろうとしています。この構想をスタートして今年で3年目となりますが,本学は教育研究を通して,皆さんを我が国のみならず,これからの世界を勇気を持って先導していくような,国際性豊かで人格に優れ,Lofty Ambition(高邁なる大志)を持った人材に育てることを目標としています。
ですから,これから北海道大学における学園生活が始まる皆さんにも,この4つの基本理念を理解していていただきたいと思います。
「フロンティア精神」は,まずもって,未知の領域を切り拓く精神です。先人の後を追うのではなく,まだ誰も手をつけたことのない未開の地に挑むことです。ここにいらっしゃる多くの皆さんにとって,北海道という土地柄も,フロンティアであると言えるでしょう。大学における学びの中では,高校までのように与えられた教科をこなすだけではなく,何を学んでいくのか,自らの選択によって決めていく必要があります。そしてその選択は,自らの人生の方向を決めていくことでもあります。こうした学士課程の学びの中で,また課外活動等を含めた学生生活のなかで,大いにチャレンジ精神とフロンティア精神を発揮して,自らの道を切り拓いていってください。
「国際性の涵養」は,今日のグローバル化した社会の中では必然の要請です。IT,特にインターネットの発達は,情報が一瞬にして世界を巡る環境をつくりあげました。そのため,一つの国での政治的,経済的あるいは社会的な動向が,すぐさま世界中に影響を与え合う国際社会となりました。こうした世界の中で,これからの人生を切り拓いていこうとする皆さんには,コミュニケーション能力が必要不可欠です。本学では,2013年度より「新渡戸カレッジ」を立ち上げ,毎年200名(1年生は120名)の学生を選抜し,カレッジ生には,卒業までに,実践英語をはじめとするカリキュラムを用意して,日本及び異文化理解を深め,原則1セメスター以上の海外留学を義務付ける特別教育プログラムを開始しています。この「新渡戸カレッジ」は,札幌農学校の第2期生であり,国際的に活躍された新渡戸稲造博士の精神を受け継ごうとするものです。また,このプログラムでは,北海道大学連合同窓会の協力のもと,国際経験豊かな同窓生が,カレッジ生のフェローとして,皆さんが国際社会に出ていくための様々な支援を行います。多くの新入生がこれに挑戦して,自らの新たなる道を切り拓いてくれることを期待しています。さらに,本学では,昨年4月より「現代日本学プログラム課程」を開始し,毎年20名程度の留学生を学士課程に受け入れ,当初2年間は「新渡戸カレッジ」との合同となる英語による授業を開講し,この2つのプログラムによって,本学の「バイリンガル・キャンパス化」を図ろうとしています。また,スーパーグローバル大学事業の一つの取り組みとして,世界の研究者と協力して夏の北海道で国内外の学生を教育する「Hokkaidoサマー・インスティテュート」,連携している海外の大学で,本学と海外の学生が共に学ぶ「ラーニング・サテライト」など,多様な事業を展開していますので,こうした機会に積極的に参加していただき,多くの留学生との交流を通じて,皆さんの国際性が養われることを期待したいと思います。
次に,「全人教育」についてです。皆さんは,入学後の1年間を総合教育部に所属して,本学の教養教育である「全学教育科目」を学び,幅広い教養を身に付けるとともに,それぞれの分野の専門教育を受けるための基礎的な素養を修得します。そして,北海道大学には,日本全国から,いや全世界から,学生が集まります。先ほども触れましたが,今年の道内勢は,4割を切っています。道内出身といっても自宅から通学可能な学生は多くはありませんので,結果的に新入生の7割以上が親元を離れ,自宅外通学を4月から始めます。こういった状況は,他の大学にはない,北海道大学ならではの環境です。このように,皆さんは,生まれた国や地域,育った環境も将来の進路も異なる極めて多様な仲間とともに,多くの人は初めて親元を離れて勉学に勤しみ,また課外活動に打ち込んでいくのです。皆さんが,この環境の中で,多くの友人と接し,自らを省み,自己研鑽の場として活用されることを期待します。多くの先輩達が,本学でのこうした多様な仲間との出会いが,生涯の財産となったと述べています。この環境の中で,隣の友人のことを慮ることが,皆さんの受けるべき「全人教育」の出発点かと思います。
そして,「実学の重視」についてです。札幌農学校の時代には,これはまさに,日本の,そして北海道の農業に直接役立つ教育を施すことを目指す,ということであったかもしれません。しかしながら,我が国における基幹総合大学に成長した北海道大学にあっては,その意味合いは自ずと変化しています。近年,科学技術の進展と社会の発展のテンポは急加速しており,その中で,単一な科学技術への信頼は薄れてきています。現代社会が直面する問題には,例えば地球温暖化をはじめとする環境問題,東日本大震災後の原子力発電を含めたエネルギー問題,リーマンショック以降の世界的な経済問題などがあります。これらに共通しているのは,すべて複合的な課題であるということ,さらには,これらの課題解決には科学技術のみならず,社会科学の最前線における活動も求められるということです。そのため,大学における教育研究も,常に現実社会と向き合うことが求められる状況となっています。皆さんにも,本学での学びの中で,常に自分と社会との関わりを意識していただきたいと思います。それが現代の「実学の重視」の精神であろうと思います。
新入生の皆さんには,このように本学の4つの基本理念が,自らの学園生活にどのように関わるのか,常に意識していただきたいと思います。それと同時に,これから始まる皆さんの4年ないし6年のエルムの学園での学修の中で,一つの課題を出したいと思います。それは,自らの学びの姿勢を確立するということです。
皆さんのこれまでの学習環境は,学校の先生方や保護者の方によって,良くコントロールされた,いわば与えられた,受け身の学習環境ではなかったでしょうか。皆さんがこれから大学や大学院へと進んでいく中では,さらに先人の歩みを辿るとともに,研究という誰も踏み入ったことのない領域を手探りで進む作業へと進んでいかなければなりません。そのためには,皆さんのこれまでの勉学に対する姿勢を変える必要があるでしょう。皆さんは,小学校以来,物わかりの良い,先生のおっしゃることはすぐに理解する生徒であっただろうと思います。しかしながら,物事の理解には深さがあります。何事も表面的に理解してしまって先に進んでは,人から教わることがなくなった時,そこから一歩も進むことができません。皆さんにも,ある事柄の説明を聞いて,何やら納得がいかない,腑に落ちないと思った経験があることと思います。この時,この事柄にこだわって色々と考えていくうちに,ある見方に気づいて,突然,納得できた,腑に落ちた時,事柄の理解は深まっています。学問の世界では,人の説明,あるいは教科書の説明に対して,どうしてそうなるのかと自分流にこだわる中で,自分の物の見方が育ち,それが研究のきっかけにもなっていくものです。皆さんには,是非,自分流の学び方,姿勢を探し求めてほしいと思います。また,技術革新が,日進月歩で進む現代社会にあっては,表面的な知識の蓄積は長持ちしません。その意味で,皆さんは生涯学び続ける習慣を,必然的に身に付けなければならないでしょう。そうした生涯の自分を支える学びの姿勢を北海道大学在学中に,確立してほしいと思います。
以上,新しく北海道大学での学園生活を始められる皆さんに,いくつかの希望と注文を述べさせていただきました。
皆さんが,これから踏み出される北海道大学での歩みの中で,良き友に巡り合い,良き師に恵まれて,自らの豊かな道を切り拓かれることを祈念申し上げて,入学式の告辞を結びます。