アカデミアの本質は,大学人が自らの良心と責任に基づいて行う知の創造とその伝承にあります。現代社会においてこの本質を守っていくためには,時流に流されない普遍的な知の探究と,時を得た爆発的な知の創造のバランスと循環が必要です。また,知の伝承には知を発展させ,あるいは社会へ応用できる人材の育成が必要です。そして,知の創造とその伝承は表裏一体の関係にあります。
本学は「近未来戦略150」に沿って,平成26年4月に国際連携研究教育局(GI-CoRE)を設置しました。GI-CoREには現在までに6つのグローバルステーションが設置され,世界の9大学等からトップクラスの研究チームを招致して発展的な国際連携研究が展開されています。各グローバルステーションでは,学内の様々な個性的「強み」が有機的に融合され,世界で本学にしかできない爆発的な知の創造(イノベーション)が進行中です。
各グローバルステーションでは,その成果を基盤とした知の伝承が構想されてきました。他に類を見ない本学のこの挑戦は内外から高い評価を受け,文部科学省運営費交付金から大きな支援を獲得しています。そして今,その知の伝承を行うために新しい3学院(医理工学院,国際感染症学院,国際食資源学院)が設置されようとしています。これらの3学院では学生たちに対して,各領域における世界最先端の知識の伝達を行うだけでなく,いま世界で進行する社会構造の大きな変化の中で主体的に新しい道を切り開いていける能力を持たせるべく,本学でなければできないような様々な教育上の工夫を行おうとしています。
医理工学院は医学研究院,工学研究院,理学研究院,保健科学研究院,歯学研究院,アイソトープ総合センター,北海道大学病院の分野横断型連携の下で,理工学の発展を医学に応用するための新たな学問分野「医理工学」を本邦で初めて確立し,量子力学から発展した放射線物理学や生体の分子挙動に関する理工学を医学に応用できる国際レベルの研究者や技術者を養成します。特長としては,スタンフォード大学との連携による世界トップレベルの医学物理学教育と放射線生物学教育,理工学系と医学系の専任教員が連携した学生の研究指導と学位審査,病院内実習科目の設定などが挙げられます。
国際感染症学院は獣医学研究院,人獣共通感染症リサーチセンター,医学研究院の連携の下で,多彩なバックグラウンドの学生を受け入れ,人獣共通感染症に関する高度な専門知識と問題解決のための幅広い見識を備え,我が国のみならず世界の感染症研究の発展ならびに感染症の制圧に寄与できる国際的リーダーを養成する本邦初の大学院です。特長としては,メルボルン大学,ユニバーシティカレッジダブリン等のトップクラス研究者との連携研究に基づくグローバル教育,国際機関や海外大学等での海外インターンシップの実施,海外の感染症現場における実践的経験や研究機会の付与,指定科目の履修等に基づいた「Zoonosis Control Expert」の認定等が挙げられます。
国際食資源学院は農学研究院,経済学研究院,教育学研究院,水産科学研究院,地球環境科学研究院,メディア・コミュニケーション研究院,工学研究院,保健科学研究院,北方生物圏フィールド科学センターの連携の下で,地球規模で拡大する複雑な食資源問題の全体を包括的に理解し,さらには専門家として解決に向けたリーダーシップを発揮できる国際的リーダーを養成する本邦初の大学院で,札幌農学校の伝統と北海道の地域的特性を活かした教育を展開します。例えば,ソルボンヌ大学,UNESCO,UCデービス校等から招致したトップクラスの食資源問題研究者と連携したグローバル教育,T型人材(ジェネラリストとしての幅広い知識とスペシャリストとしての高度な専門性を兼ね備えた人材)を育てるための学内文理融合カリキュラム,学生が食資源に関わる国内外の様々な現場を実際に体験して主体的に学修を発展させる「ワンダーフォーゲル(語源は,優れた教員を求めて方々の大学を渡り歩いたヨーロッパ中世の学生運動)型学習」などが特長です。
本学では平成27年度からこれらの3学院の設置に向けた準備を関連部局と連携して行ってきました。そして本年8月26日にすべての設置が文部科学省に認可されました。今後は,平成29年4月の設置に向け,学生募集活動を開始する等,より本格的な設置準備を進めることになります。これらの学院の設置が本学の教育力の向上に資するとともに,それがまた研究力の向上にフィードバックされるという良循環効果をもたらすことを期待しています。
最後に,GI-CoREにおける研究・教育の発展はこれで終わるものではありません。しかし3学院の設置はその一つの重要な通過点であると言えます。平成25年の構想開始以来,GI-CoREの発展に様々な角度から貢献していただいたすべての部局及び教職員の皆様にこの書面を借りて感謝いたします。
(注)部局名称はいずれも平成29年4月時点の名称(予定)