【卒業生インタビュー「同窓異曲」】

種を育てる研究所代表
日向 優
HINATA Yu
| 薬学部卒業、生命科学院博士後期課程修了 |



「フロンティア精神」を活かし、無限の可能性に挑戦する
〜人、そして地域とのつながりを大切に〜


十勝地方の陸別町に移住し、薬用植物やハーブ、森林資源を活用した商品を開発・販売する会社「種を育てる研究所(タネラボ)」を立ち上げた日向優さん。大学時代の同級生の美紀枝さんとご夫婦で会社を運営している。新天地での活動を始めたお二人に、移住したいきさつや学生時代の思い出、新たなビジネスについて語っていただいた。
((Y)は優さん、(M)は美紀枝さん)



開発商品のエッセンシャルオイル。
北大構内のインフォメーションセンター
でも販売されている。

―今、一番売れている商品は何ですか。

 (Y)トドマツとアカエゾマツを原料にしたエッセンシャルオイルです。「森のいい香りがするね」と多くの方々に喜ばれています。


―普段はどのようなお仕事ぶりなのでしょうか。

 (Y)春先から夏、秋にかけては農作業が中心です。朝8時過ぎから夕方まで農作業をしています。秋から冬にかけて収穫した植物を加工し、営業や販売をしています。今は、30種類の植物を栽培し、食品や化粧品などの商品開発を手掛け、今後の主力商品を決めようとしている段階です。大学時代に学んだ「まずは自分でやってみる」をモットーに、様々な分野の方との交流を深め、商品に興味を持ってくれるファンを少しずつ増やしていければと考えています。


―陸別町に移住したいきさつについて教えて下さい。

 (Y)もともと2人とも本州の同じ製薬会社の研究所に勤めていましたが、30歳を超えたぐらいから、自分たちの将来について、一から考え直すようになりました。これまで学んできたことを研究以外の違う仕事に活かすという選択肢もあるのではないかと。そのような中、北海道への移住を考えるようになり、開催されていた「北海道移住フェア」で情報収集を行いました。そこで陸別町の方と話をしたことをきっかけに、体験移住をしてみたところ、とても気に入りました。最初は2人とも陸別町の「地域おこし協力隊」として着任し、私は薬用植物の栽培試験を、妻は商工業や観光業の活性化の活動に従事しました。

 (M)大学時代を過ごしたことで北海道を好きになり、移住するなら北海道だと思っていましたが、2人で2〜3年は考えました。その間、陸別町の魅力、自分たちの価値観ややりたいことを目指せる環境など、一生懸命自問しながら決断したという感じです。


―新しく農業を始めたことでどのようなご苦労がありましたか。

 (Y)はじめに、そもそも私が畑を借りる資格が得られるのか、農地法上の課題をクリアする必要がありました。その次に、実際に畑を貸してくれる方を探すのも大変で、すべてをゼロから自分で考えなければいけないという苦労は今でもありますね。また、薬用植物やハーブの栽培方法は一般の農作物の栽培と異なる部分がいくつもありますので、日々の勉強も欠かせません。

 大雨や強風、冬の寒さなどの気候条件により作物がダメになることもあり、栽培に関する課題は山積みです。ただ、栽培法の確立だけに注力してしまうと、加工や販売に充てる時間が少なくなってしまいますので、今はある程度の収穫量を得ながら、それを利用した面白い商品を開発することに力を入れています。

 仕事の進行管理や、エッセンシャルオイルを抽出する蒸留作業などの化学の知識は、大学時代の研究経験が役立っています。



―北大に入学されたいきさつについて教えて下さい。

 (Y)札幌出身で実家から近いこともあり当然のことのように北大を目指しました。薬学部を選んだのは、なんとなく薬剤師が面白そうなイメージがあったからです。

 (M)私は広島県の出身ですが、地元から離れて誰も私のことを知らないという状況の中で学生生活を送ってみるのも面白いと思い、北大にしました。薬剤師に関心はありましたが、それ以外でも仕事の選択肢が多いのではないかと思って薬学部を選択しました。


―どのような学生生活を送られましたか。

 (Y)学部、大学院時代ともに勉強で忙しかったですね。朝から夕方まで授業や実習で、あんまり遊んだ記憶がなくて(笑)。その中で、有機合成化学という学問分野に出会えたことが良かったです。大変でしたけど、面白かったから続けられたのかなと思います。

 博士課程1年生の時にアメリカの大学に3カ月間留学する機会がありました。文化の違いもあり、見ることすべてが新鮮でした。人間的にも成長できたことが実感でき、一番の思い出となりました。

 (M)動物実験で苦労したことを覚えています。お正月休みを返上して大学でネズミと一緒に実験をしていたこともあります。

 勉強優先の学生生活で大変でしたが、混声合唱団に入っていました。そこで人との付き合い方や、集団としての折り合いなど、多くの経験ができました。


―本州での暮らしを経験され、改めて北海道の良さはどこにあるとお考えですか。

 (Y)気候をはじめ暮らしやすさは北海道が一番だと思います。本州は、冬も意外に寒いですしね。

 (M)何を食べても美味しいのはすごく良いですね。自然の風景も、北海道内の地方ごとに特色があり、道内旅行をしていてもすごく楽しいです。


―最後に北大生へのメッセージをお願いします。

 (Y)学会参加や留学を通して、様々な価値観や考え方を持つ人と議論した経験が、今の自分の糧になっています。皆さんにもぜひ、外の世界に積極的に飛び込んでいってもらいたいですね。

 (M)世の中に多様なものがあるということを知るために、積極的にいろいろなところに出ていってほしいですね。現状に満足せず、自分のスキルが活かせる場所を見つけられるように努力してもらえればと思います。


趣味のドライブで集めた
カントリーサインステッカー。

PROFILE

1983年北海道出身。2006年に北海道大学薬学部卒業、2011年に同大学院生命科学院博士後期課程を修了し、塩野義製薬株式会社に入社。医薬研究本部にて創薬化学の研究に従事。2017年からは北海道に移住し、陸別町地域おこし協力隊 新事業支援推進員として活動。2021年2月から現職。人との関わりを大切に、新天地で地域活性化に向けた取り組みを行っている。



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