大学文書館
1876年の札幌農学校開校を起源とする北海道大学。 札幌キャンパスの南側にあるクラーク会館前を西に進むと、きれいな花壇が見えてくる。その向かいにある三角屋根の建物が大学文書館だ。設置当初は附属図書館本館内に拠点を構えていたが、2016年2月に旧留学生センターだった現在の建物に移転した。中に入ると正面に大きなガラス窓があり、明るい展示ホールの先にクラーク博士の白い胸像が目に入る。 文書館が設置されたのは今から16年前に遡る。2003年まで行われた本学125年史編纂事業に携わっていたメンバーらが、歴史的な資料を恒常的に集めて後世に伝える組織を作る必要性を感じ、大学内での議論が始まった。この当時、情報公開法関連法令の施行(2001年)による公文書管理制度の変更や、歴史の長い国立大学の多くがアーカイブズ整備を始めていたことも後押しとなり、2005年5月に設置された。文書館では、本学に関する歴史的な公文書や各種資料の収集・整理・保存、調査研究等を行うとともに、広く一般の方が閲覧利用できるよう展示・公開等を行っている。2017年4月には「公文書室」と「沿革資料室」を設置し、各室に専門スタッフを配置して運営にあたっている。
歴史を語る資料の数々
公文書室は、国立公文書館と同等の機能をもつ組織として、国から公文書管理法関係法令に基づく「国立公文書館等」の指定を受け、歴史資料として重要な公文書の保存・公開を行っている。諸会議の記録や組織の設置・改廃等の管理運営関係、予算・決算等の会計関係、シラバス・学生便覧や卒業生名簿等の学務関係、知的財産や助成事業等の研究関係、建物設計図等の施設関係、大学間交流協定等の国際交流関係など、実に膨大な量の公文書が同室での管理対象になっているのだ。文書館長を務める山本文彦理事・副学長は「様々な公文書をしっかりとした形で保存し、大学の歩みを示すことが文書館の最も重要な責務です」と話す。
沿革資料室も同様に公文書管理法関係法令に基づき、「歴史資料等保有施設」の指定を受けている。公文書以外の歴史的資料を収集・整理・保存・公開しており、部やサークル団体の刊行物、学生の日記や講義ノート、北大祭のパンフレット、鬼仏表(学生による教員の評定表)といった学生生活にまつわるものから研究室や同窓会に関するものなど、団体・個人を問わず、ありとあらゆる資料が収集の対象となっている。ホームページや同窓会会報などを通じて地道に資料収集への協力を呼びかけており、こうした活動の中で、思わぬ資料や興味深い品々に巡り合うこともあるという。 歴史的な資料では新渡戸稲造や宮部金吾など名の知れた人物に関わるものはもちろんだが、有名な人物に関係なくとも当時の大学の様子がわかる記録や教材、写真など貴重な資料が数多く収められている。また、札幌農学校時代からの建物の設計図等も当時のまま残されている。戦後のものでは、かつて存在した北大前の市電の電停を示す看板、食堂メニューのメモなど、その当時は歴史的資料になるとは思いもしなかったような品々も、今では大学の歴史をたどる上で貴重な資料になっている。 歴史を伝えるという使命
こうした数々の資料は館内で閲覧することが可能だ。常設展示では「北大生の群像−北大150年の主人公たち」をテーマに札幌農学校の開校から、戦前戦後、大学紛争といった各時代の学生たちの様子が目に浮かぶような写真や資料を見ることができる。また、「遠友夜学校の歴史」をテーマにした展示もあり、新渡戸稲造と妻メアリーが学校に通えない子ども達のために開いた遠友夜学校の開校を巡る手紙や、夜学校卒業生らが残した資料などが見られる。
地域交流の推進という観点から、定期的に企画展示も開催している。「資料を集めるだけではなく、調査研究を積極的に進めているのが本学文書館の特徴です」と文書館の井上高聡准教授。調査研究の中で、企画展示のテーマがひらめくこともあるという。2019年に開催した「北大における女性自学から男女共学へ−新制大学70年」では、1918年に女性として初めて本学の全科選科生となった加藤セチ氏の紹介をはじめ、男性のみに開かれていた大学に切り込んでいった女性たちの活躍と戦後の男女共学化までの紆余曲折に関する資料展示を行った。今後は、総合博物館と共に、当時の大学の対応が批判されている「宮澤・レーン事件」に関する展示も予定している。「大学に対する批判的な意見があることは承知していますが、残された資料から明らかになっている事実を後世にしっかりと伝えることが大学の使命です」と山本館長。この他、文書館では、本学の歴史に関心をもってもらえるよう、オープンキャンパスや大学祭にあわせて展示解説ツアーなども催している。 大学の歴史が蓄積している文書館。北海道の歴史を調べている者、在籍していた頃の資料閲覧に訪れる卒業生、祖父が北大出身と聞いてその当時の資料を見に来る者、クイズ番組制作のための事実確認を行うテレビ番組担当者、社会科見学等で大学の歴史を調べに来る中学生など、利用者の年代や利用目的は様々だ。コロナ禍の現在、文書館での資料閲覧は事前予約制になっているため、利用にあたっては文書館ホームページで最新の状況を確認いただきたい。 150年史の編纂、さらにその先を見据えて
2026年に創基150年を迎える本学。年史編纂事業の中核を担う文書館では、2018年度に北海道大学150年史編集準備室を設置、2021年度からは150年史編集室に改称し、様々な記録や資料・調査データなど、種々の媒体を活用して本学の150年を読み解くための試みを本格化している。 150年史編纂事業を進める上では、総合博物館や附属図書館、植物園といった学内関係各所との連携が不可欠だ。図書館で保管している札幌農学校時代の蔵書と文書館の歴史的資料を組み合わせた展示の共同開催、図書館や植物園との共同による古い写真の乾板(ガラスにネガのようなものを写して保存するもの)のデジタル化作業など、これまでも連携した取り組みを行ってきているが、地域貢献という類似の目的を持つ各所との連携をさらに強化していきたい考えだ。 現在、文書館は保管資料が多くなり、うれしい悲鳴をあげている。保管場所の問題、資料を整理する人員の不足、さらには利用者の多様化するニーズへの対応など課題は山積しているが、「ここに来れば北大の歴史はなんでもわかります。そういう施設でありたいです」と井上准教授。保管場所と作業量との関係で取捨選択は必要になるが、紙質など古い時代の質感自体を残すことも本学の歴史を感じる上で大変重要なことだ。
また、現在は大学で作られる資料もデジタル化が進んでいる。オンライン授業の普及により講義資料やノートのデジタル化が加速したことに加え、部活動やサークル活動でのコミュニケーションもオンラインで行われることが多くなっている。このような中、どのように資料を保存し、何を未来に残していくかは難しい課題となっている。 「在学生や教職員に向けても、本学の歴史を学べる機会を多く作っていきたいです」と山本館長。「札幌農学校から始まり、日本で最初期に学位を授与した高等教育機関の一つである本学の歴史を知り、自校への愛着を少しでも深めてもらえればうれしいですね」。
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