【特集2「つなぐ」―次世代を担う人材育成―】

農学研究院食水土資源グローバルセンター/国際食資源学院


海外実習を行う学生達。


地球規模で拡大する食水土資源問題への挑戦

世界の第一線で活躍する海外研究者を招へいし、国際共同研究を推進する農学研究院食水土資源グローバルセンター。
ここで得られた研究成果を大学院教育に還元し、国際的なリーダーとなる人材を育成・輩出している。



 かつてない爆発的人口増加により世界人口は2050年には90億を超えると予測されている。加えて地球規模で激化する気候変動で世界の食料生産は危機に直面している。食資源問題の解決は、国連が持続可能な開発目標の2番目(SDG2)に「飢餓ゼロ」を掲げる程の最重要課題の一つだ。

 2020年4月、農学研究院に食水土資源グローバルセンター(GCF)が設置された。GCFは2015年設置の国際連携研究教育局(GI-CoRE)※1食水土資源グローバルステーションの機能を継承し、世界の食水土資源に関する諸問題に立ち向かう研究組織だ。GCFはまた、2017年に設置された国際食資源学院とも連携し、研究成果を積極的に教育に取り入れることで人材育成にもあたる。

先端的な共同研究を展開するグローバルセンター

 「GCFは食に関わる多様な問題に包括的に取り組む国際共同研究拠点として発展してきた組織です」と、GCFのセンター長で国際食資源学院長も務める高橋昌志教授は設置経緯を語る。「多角的な研究とともに文理融合的な教育で次世代を担う人材の育成を目標としています」。生産、管理、環境、経済など、様々な観点から食の問題を理解し、世界的展望を持ちつつ地域に貢献する「グローカル」(global+local)な人材の養成を目標に掲げる。本学は、SDGsの枠組みを使って大学の社会貢献度をランク付けする「THE大学インパクトランキング※2」で2年連続国内1位に選出されており、特にSDG2の評価が高く、GCFの取り組みはこれに大きく貢献している。

 GCFが扱うのは、主に農業、畜産業、水産業に関わる陸と海の食資源問題だ。農作物収量変化要因の把握、乱獲による漁業資源枯渇への対策や海洋資源管理などの研究を精力的に行っている。また、JICAとの協力により畜産と農業をうまく組み合わせた食料増産プロジェクトも始まろうとしている。他にも、バイオエネルギー利用、土壌中の窒素循環や海洋生物のバイオプラスチック汚染といった環境評価など、GCFが対象とする研究分野は幅広い。直接的な食料生産技術から加工、保存、流通のほか、食品安全性、環境問題、ひいては、生産者と消費者の健康問題、経済状態から国家レベルの食料安全保障など、各国の政策にも関わってくる。これら諸問題に取り組むには、地理的な特徴のみならず、政治、経済、民族、文化、歴史、思想なども知る必要がある。そのためGCFでは、海外研究者との共同研究を進めるとともに、学内関連部局とも連携して文理融合の学際的な教育に注力している。農学、工学、水産学、環境学、保健衛生学などの理系学問と、政治学、経済学、教育学といった文系学問が有機的に学べるのだ。GCFは、本学教員10名、海外招へい教員15名体制で、多彩な外国人教員団はそれぞれの専門分野で研究を展開するとともに、全員が国際食資源学院の授業も担当する。

生きた教育を提供する大学院


国際食資源学院の講義風景。

 専門を広げ深化させていく「T型人材育成」を掲げる国際食資源学院。講義は全て英語で行われる。「進学を考える学部生にはたじろぐ人もいますが、必ず力が付きます」と前センター長の井上京教授。志願者は、学院開設時から常に定員を超えていて、全員を受け入れられないのが心苦しいという。「海外の先端研究の話を直接聞けるのでとても効果的です」と、高橋センター長も力を込める。「食に関する問題を解決したいという意欲のある学生は大歓迎です」。食資源問題には様々な関わり方があることを知り視野を広げてほしいという。

 カリキュラムの中でも特に学生の関心が高いのが海外実習「ワンダーフォーゲルT・U」だ。Tではデンマークにおける農業・環境・地域社会のあり方、Uではミャンマーにおける地域開発の現場など、それぞれ2週間程度の視察と研修が実施されてきた。実際の作業や農家経営、機械化や灌漑の状況などを実地で見聞し、後に発表会が開かれる。ここ2年はコロナ禍で中断されてはいるが、「海外実習では現地に行って、見て、聞いて、感じる。そうした生きた教育が国際食資源学院の特徴です」と、高橋センター長は自信を覗かせた。

 国際食資源学院は設置から4年余り、修士課程2年の運用を経て博士課程開設と段階的に展開している。学院内博士課程進学者が学位を取得するのもいよいよだ。将来は途上国の行政官などが国際食資源学院で博士号を取得して本国で活躍するといった構想も描かれる。国際食資源学院修了者は公務員のほか、食品関連、水資源関連、コンサルタント業、商社など民間企業にも広く採用されている。「海外とつながる仕事で経験を積み、ぜひ能力を発揮してほしい」と高橋センター長。世界人としての視点と力を備えた人材に期待がかかる。


 GCFと国際食資源学院とが連携して育てた人材の活躍が、世界の食問題の解決へとつながっていく。

 GCFでは国際シンポジウムを開催して研究成果を世界に発信している。コロナ禍収束後にはグリーンな食資源の回復が見込まれ、今年は「フロムCOVID-19」と題して食料政策や飢餓問題など社会科学系のテーマが中心となりそうだ。
 シンポジウムには国際食資源学院の学生も参加し、学生コンペティションでは優れた発表に賞が与えられる。授業で鍛えた力の見せ所だ。


基調講演(国際シンポジウム2019)。


学生発表(国際シンポジウム2018)。

※1 本学の強みや特色を活かした国際連携研究・教育の推進と部局が独自に進める国際連携研究・教育の支援を目的とし、世界トップレベルの教員を国内外及び学内から結集した総長直轄の教員組織。

※2 イギリスの高等教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が2019年から実施。本学は、2020年に世界76位・国内単独1位、2021年に世界101-200位・国内同列1位に選出。SDG別のランキングでは、SDG2の取組が世界15位(2021年)に選出されている。



前のページへ 目次へ 次のページへ