浅野牧場 酪農家 理想の生き方を求めて 釧路市に移住し酪農業に従事しながら、野菜の栽培・直売や、同世代の女性農業者と「Becotto」というグループを結成し、農業の魅力を写真展やSNS を通じて発信するなど多彩な活動をしている籔内直美さん。現在に至ったいきさつや今の暮らしぶり、学生時代の思い出などについて語っていただいた。
―北大を志望した動機は。 農家である祖父の家に行くと、田んぼや畑でよく遊んでいました。そこから農業に興味を持ち、農学部への進学を考えるようになりました。北海道には家族旅行で訪れたこともあり良いイメージを持っていましたし、農学部であれば北大だろうということで志望しました。 農学部では植物に関心があったので生物資源学科の作物生理学研究室に所属し、作物の基礎研究、具体的にはダイコンの抽だいという茎が伸びて花が咲いてしまう現象の抑制について学部、大学院(修士)と勉強していました。
農家を訪問して手伝いながら農業体験をするというサークル「アギーズ」に所属し、週末や長期休みの時期に農家さんのところに行っていました。当時は、農学と実際の農業との遠さを感じていましたし、農家さんの中には北大の農学部生は何を学んでいるのかと関心を持って受け入れてくれる方々がいました。 北海道は専業農家がほとんどなので、広大な大地で農業だけで生計を立てていることに驚きと面白さを感じました。今でも、トマト農家さんやお味噌を作っている農家さんとはお付き合いがあります。 現在では、自分が農業者として学生を受け入れていますので、学生に対して何ができてどのようなことを伝えられるのかを考えるようになり、視点が変わって面白いですね。
大学院修了後、三重県の農業資材販売会社で働いていたのですが、そこで営業をしているうちに自分でも農業をやりたいと思うようになりました。そんな中、アギーズの先輩であり現在のパートナーが「一緒に酪農をやらないか」と声をかけてくれたのがきっかけでした。北海道が恋しくなったということもありますね。
うちの牧場は経営の効率化を進めていて、他の牧場より勤務時間が短いかもしれません。私は朝5時から8時頃、夕方4時半から6時半頃までが通常業務で、分娩やトラブルがなければ5時間ぐらいしか働いていないと思います。日中は、夏は畑作業、冬も何か好きなことをしています。野菜栽培も好きでやっているので苦になりませんね。ミニトマトをメインに、きゅうり、なす、ピーマン、トウモロコシ、カボチャ、ホウレン草、ラディッシュなど、期間は短いですがいろいろ作れます。 日曜日には、栽培した野菜を近くの温泉施設で直売しています。直売というのは、自分の作った作物に対価を払ってもらえるすごく良い経験です。
農家としての生活全てが、すごくいいなと思っています。食料を生産して、牛乳もある、野菜もある、釣りをしたら魚もとれる。狩猟免許も持っているので鹿も獲れる。ヤギも飼える。クルミも、行者ニンニクも採れる。もともと自給自足に憧れていて、それに近い生活ができます。どんどんアナログの生活になっていくのが面白くて。 不便さは感じませんよ。インターネットの光回線さえ整備されれば快適な生活が送れます。苦労といえば、牛のお産が重なると大変です。病気の子牛や立てない子牛を世話することもありますし、牛が脱走した時は大変でしたね。
阿寒農協の青年部に同年代の女子が5人ほどいて、「女子会やろうよ」という話から盛り上がりました。みんな農家に嫁いでくると友達ができにくいのですよ。仕事の話や悩みを共有したり、牛の哺育の勉強会をやったり、女性はやっぱり共感が大事なんです。グループの名前を決めるときに、みんなでアイデアを出し合ってBecottoに決まりました。 そして私が写真好きだったこともあり、メンバーがそれぞれカラフルなTシャツを着て、みんなで集まって楽しくしている様子を、写真展やSNSで発信するようになりました。私たち自身が酪農を楽しんでその姿を撮って発信すれば、興味を持ってくれる人が増えるのではないかと考えて活動しています。
やっぱり人とのつながりですね。北大生はわりとほのぼのしていますが、いろいろな能力を持っているところがすごく好きです。大きな財産ですね。 また、現場で困ったことがあっても勉強して解決できるのですよ。問題解決型の勉強ができる力は卒業論文や修士論文を書いて発表する過程で培ったのかなと。
人を大事にして、いろいろな人の話を聞いて、興味のあることをとにかく広げて実践してほしいですね。また、インプットだけではなく、アウトプットすることでも学びが深まります。
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