1.授業の目的・内容
対象科目は民法であるが,民法は法律学において1つの骨格をなしており,講義科目だけでも民法IからVまでの計20単位が用意されている。しかし,200名以上を相手にした講義方式の授業だけでは,抽象的な内容も含むだけに,理解が困難であったり,概念を実際の事例に当てはめる能力(=知識を使いこなす能力)を養成するのは難しく,それを補うためにこのような演習を開講している。対象分野は同時並行的に開講されている民法の講義と同じ分野であり,この演習では契約各論と物権法総論が取り上げられた。
2.授業実施上の取組・工夫
毎回事例式の問題を1−2問出題し,月曜日の午後5時までその問題に対するレポートを全員に提出してもらう。出題のさいのポイントは,必ず教科書の対応部分を示し,そこさえ読めば,ある程度解答までたどりつけるようにしておくことである。学習の範囲を明確に限定することは学生に安心感を与え,モチベーションを向上させる。またレポートを作成させることで,はじめて学生は教科書を真剣に読むことになる(単に「読んでこい」では,学生は「読み飛ばす」だけである)。演習は水曜日の5講目であり,教員はそのときまですべてのレポートに目を通して,学生が誤解しやすいところを把握し,演習の前半部分(最初の40分程度)で,その回の対象領域の骨格と誤解しやすいところに焦点を絞って講義を行う。次に後半部分では,毎回4名程度指名している担当者に,問題に対する解答を報告してもらう。報告は口頭で行うが,教員が内容を板書し,適宜修正したり,解説を加える。報告者はこの解説を聞いたうえ,次の週にレポートを提出する(つまり,報告者以外の参加者は授業前にレポートを提出し,報告者は授業後にレポートを提出することになる)。成績評価はレポート(半年で12回程度)に基づき行う。レポートは添削して返却した方が教育効果が上がるが,現時点では残念ながら,そこまでの余力はない。
3.アンケート結果に対する意見・今後の対応
同種の演習は平成10年から9回開講し,うち6回でアンケートを実施した。
年度 | 対応科目 | アンケート結果 | 回収枚数 | 履修者数 | 希望者数 |
平成11年度前期 | 民法I | 4.1 | 28枚 | 28名 | 28名 |
平成12年度前期 | 民法I | 4.06 | 37枚 | 39名 | 39名 |
平成12年度後期 | 民法II | 4.36 | 50枚 | 53名 | 82名 |
平成15年度前期 | 民法I | 4.42 | 48枚 | 50名 | 92名 |
平成15年度後期 | 民法II | 4.38 | 55枚 | 60名 | 118名 |
平成16年度後期 | 民法I | 4.21 | 47枚 | 49名 | 67名 |
いずれの演習でも方法は変わりないのに,学生の評価には0.3程度の幅がある。希望者が50名以下の場合,全員受け入れるが,それ以上の場合,希望理由書等に基づき選抜を行うため,士気の高い学生が集まり,その結果,授業評価も高まるものと思われる。
授業の「良さ」とは多様であろう。学生による評価の高い授業も「良い」授業ではあろうが,それが低くとも,たとえば学生が毎回出たくなるような授業は「良い」授業であろう。極論だが,履修者が200名なのに常時3名しか出席者のいない授業は,その3名の評価が高くても,197名からNoを突きつけられている点で問題を含み,他方,出席を取っていないのに,毎回全員出席しているなら,ポイントの面での評価は低くとも,「すべての欠点を差し引いてもなお,出席するに値する授業」と言われているのだから,問題はさして大きくない。ポイント評価の限界を弁え(=「良さ」の多様性を認め),しかし,「独善」に陥らない。容易ではないが,この種の情報交換がその一助となるのは確かであり,他の先生方の手法・ご経験から大いに勉強させていただいている。