理系部局

○ ベントス学2 水産科学研究院・助教授・和田 哲

1 授業の目的・内容

水産活動(漁獲、種苗生産)は、特定の性質をもつ個体を選択的に対象種の繁殖集団から除去あるいは集団に添加する活動です。例えば、漁獲は、一般に大型個体に限定しておこなわれます。したがって、水産活動は繁殖集団に対して人為淘汰による進化を促しますが、現在の水産業は対象種が進化する生物であるという前提を軽視している傾向があります。このような背景を考慮して、私は、本科目の目的を「ベントス (カニや貝などの底生動物) を対象とした研究例をおもな題材として、進化生態学の基本的な考え方を理解すること」としています。本科目の到達目標は、進化生態学の視点からベントスという生物群を捉えることができるようになることと、従来の水産活動における問題点を理解することにあり、最終的にはベントスを持続的に利用するための資源管理手法を考察できるようになることを目指しています。

2 授業実施上の取組・工夫

授業はプレゼンテーションソフトで作成した教材をプロジェクタで映写しておこないました。ベントスには学生にとって馴染みの薄い動物が多いので、そのような動物では写真を見せることを心がけました。そして、数式の展開やグラフ描写、授業で出た意見の提示などには黒板を併用しました。プロジェクタは便利な道具ですが、授業の進行が早くなりがちで、受講者が眠くなってしまうという欠点もあります。また、授業中にノートをとることによって、学生自身が授業内容を頭の中で反芻しながら授業を聴くことができると、私は考えています。そこで、学生には上記教材を部分的に (というよりも大部分) 空欄にしたものを配布して、空欄に文章を記入する形式をとりました。さらに授業内容の理解を促すために、ほぼ毎回、答えが多数考えられるような質問を提供して、3?4人の小グループで討論をおこなってから、その答えを発表してもらうか、あるいは数値を計算する問題を出して、正しい数値を求めている学生に、解き方の説明をしてもらう機会を設けました。また、各回の授業内容に関連する参考資料を多数配布して、復習や発展的な学習ができるように配慮しました。一方で成績評価では、試験の点数が悪くても再試験をおこなわない旨を予め伝えておき、出席状況も一切考慮せずに、中間および期末試験の成績だけでおこないました。

以上のように、私の授業の進め方はオーソドックスなものと思いますが、私がとくに気をつけているのは以下の2点です。ひとつは、教材や配付資料の準備を入念にすることです。私はプレゼンテーションが得意なわけではないので、話術よりも内容を充実させようと考えて、教材で使う説明文や配付資料の選定に気を配りました。もうひとつは、ゆっくり話すことです。私自身が、初めて聴く内容をすぐに理解できる人間ではないので、自分が学生だった頃に感じたことを参考にして、ややこしい箇所は繰り返し説明することなどによって、予定している分量を全部こなすことよりも、できるだけ多くの学生に理解してもらうことを心がけました。また、板書の時間を十分にとるように心がけました。

授業は学生の自学自習を促すためのきっかけと私は考えています。その観点に立つと、授業は分かりやすくて知的好奇心を刺激するものが理想的だと思います。今回のアンケートでは予想以上に高い評価をいただきましたが、私は今回の授業が良いものだったという実感は得ていません。私の授業は分かりやすいという点では成功したようですが、学生の知的好奇心を刺激して、自学自習のモチベーションを十分に高めることができたとは感じていないからです。とりわけ、潜在的に高い自学自習能力をもっている学生のモチベーションを高めるためには、授業内容にあえて分かりにくい部分も取り入れたほうが良いのかもしれません。私の授業にも、まだまだ改善点は多いと思っています。


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