精神障害を精神医学の視点から紹介する入門的な授業である。対象は理学療法士、作業療法士を目指す学生である。どのような精神の状態を精神障害学の対象とするかという精神症状論が中心でなる。
第1に、国家試験においては両専攻共にこの分野からの出題もされる為、それらを解くための学力をつけることが最低限必要となる。専門の理学療法学・作業療法学には直接関わらない領域であるため、あまりに大きな学習目標を学生に要求することはできない。従って履修しなければならない課題を明確に設定し、授業時間内のみでの習得を目標とする。
第2に精神障害の症状は目に見えず言葉として表される。そこで特殊な用語の理解が必要であるが、一方、マスコミを通して時に誤った情報や言葉が伝えられており、これらは学問的に把握しなおす必要がある。そこで専門用語の内容の説明をまず行い、次に実際の症例を紹介し、最後にそのような精神状態が人間生活の中でどのような意味や問題をもつか説明を加える。
例えば幻覚は、簡潔な定義としては「対象のない知覚」となるが、授業では錯覚との相違などを説明しながら、言葉としての理解をまず図る。次に実際の症例で、単に知覚されるはずのないものが知覚されているという単純な現象ではなく、幻覚によって患者がいかに苦しむかについて説明を加える。さらに幻覚がなくなりさえすればいいというのではなく、患者が十二分な安心感が持てるようになるための治療論に及ぶ。
幻覚、例えば幻聴は芸術作品の中にも多くの描写があり、例としてムンクが体験したといわれる幻聴体験をもとにして描かれた「叫び」という作品を挙げて、体験する者にとって幻聴がいかに衝撃的であるかを説明する。このように語句の説明、実際の臨床例、更に芸術や生活に現れた事例といった3者を通して幻覚の理解をはかる。
医学系の学生は多くの教科を学ばなければならず、またレポート・予習・復習にとられる時間も他に比べて格段に多い。更に臨床実習で応用しうる才覚や工夫も必要となる。このように多くの時間を費やして学ばなければならない中で、専門ではなく、その基礎となる部分を授業する場合、全てに渡って授業を行うことは物理的に無理なだけではなく、学生にも余計な負担を強いることになる。そこで最も大事な点からはじめて講義時間の許す限り展開している。授業時間内に学生に理解させ、実際の臨床場面でわからなくなった場合に、教科書のどこの部分を開けばいいのかいいか、またどのような書籍を探せばいいかに重点をおいて授業することが重要と考えている。また単に知識として理解するだけでなく、自分の心で感じられるような知として理解してもらうのが、何にもまして大事と考え授業内容を用意している。
試験は2回行うが、単なる暗記ではなく、実際の症例に基づいた模擬症例を挙げ、出現する症状に名称を与え、その意味について述べさせている。試験の後には必ず解説を行い、どこが間違ったか、どこが理解不足であったかを問うことにしている。
授業に参加出席してもらうことが大事であるためレポート類は課していない。ただし出席を重視し、出席カードにはその日の授業にどのような感想を持ったか、どこが理解できなかったか意見を求める。本来は質問すべてに答えていかなければならないが、残念ながら現在では時間的な余裕がない。ただし重要なものは翌年の授業の中に活かして授業のレベルアップをはかっている。更に本学で行われている学生による教員評価とは別に、学期の最後の授業の時に、翌年の授業の参考にするための学生により広く感想文を自由な形で出してもらっている。