本講義は,都市地理学の基礎概念や方法論に関して,具体的なフィールド研究の成果を用いて理解させることを目的とした。また,地理学的な立場から,学生個々の空間情報処理能力の向上を目指した。講義中には,全学教育にふさわしいレベルで内容を充実させるように努力し,その中で理論研究と事例研究の成果をバランス良く話すように注意した。
本講義では,GIS(地理情報システム)で作成した画像が多大な効果を発揮したと思われる。 このGISとは,地図データと属性データをコンピュータ上で統合し,検索・分析・表示などをできるようにしたシステムである。これを援用することにより,近年,インターネット上で容易に入手できるようになった数多くの地理空間情報を,画像イメージとして感覚的に理解させることが可能となる。この GISで作成された社会・経済・環境などに関する地図画像は,講義において学生の興味を引き,内容の理解を促すのに役立った。また,GISの技術的な解説を行ったところ,多くの学生が自主的にGISのフリーソフトを利用して,最終レポートの作成を行った。このことから本講義は,GISのような情報技術が有用かつ身近なものであることを学生に理解させ,技術に対する興味を育てる点でも役立ったと感じている。
本講義では,多くの学生に,教養としての知識を与えるために,内容豊富で教育効果の高い教材を蓄積し,利用することが重要であると考えた。そこで,この講義では地理学的な内容を持つ多数の動画教材を用意した。この動画教材には,CGやアニメーション等で教員自らが製作したものと,過去30年間にわたって収集した映像資料(TVで放映されたドキュメント番組など)を編集したものの2種類があり,合計20本以上の教材を半年間の講義で使用した。これらの動画教材は,学術的に重要な内容を持ちながらも,エンターテイメントとしての要素を備えており,さらに教員自身の授業進行スピードや話し方などが考慮されている。動画教材を講義で利用した結果,板書やプリントではイメージさせることが難しい空間の動的概念に関する説明などで高い教育効果が得られたと感じている。また,この動画教材は講義中でなければ見ることができないため,講義に出席しなければ学べないという意識が生まれたように思われる。
最終レポートは,学生に講義で教えた事象を現実のフィールドで理解させるという目的で課しており,レポートの課題は「<地名>における<地理的項目>の研究」(例えば「札幌市における公園の研究」,「苫小牧市における港湾の研究」など地名と項目の設定は自由)とした。本講義では,この最終レポートを,最終評価を決定するための最も大きな課題としており,講義中には,どのような点で評価の違いが生じるかなど具体的で詳細な説明を行った。また,過去に提出されたレポートの良い点や悪い点を具体的に紹介することで,学生が評価に関する明確なイメージを持てるようにした。このように評価基準をできる限り明確化することで,学生は自らの作業課題を設定しやすくなり,積極的に最終レポートに取り組むようになったと思われる。なお,提出されたレポートの中には,読みごたえのある力作が数多く含まれており,たいへん驚かされた。
今回,初めて点検評価アンケートを行ったが,本講義では「授業の難易度」や「シラバスの目標到達」に関する項目が,他項目と比較して満足度の低いことがわかった。これは,これまで独自に行っていた授業評価調査では自覚できなかったことである。授業の難易度に関しては,授業を進める中で学生の反応をみて常時修正を行ってきたが,このアンケート結果により,十分な修正を行えていなかったことがわかった。また,シラバスの目標到達についても,自らの考えがあまかったと反省している。今後は,このアンケートの結果を基に,内容を改良して次回の講義を行うつもりでいる。