本授業は、高齢社会の背景、高齢者の生物学的・社会学的・心理学的特徴を学習し、ライフサイクルの中で生ずる問題、高齢者のニーズとQOLを理解し、老年期を対象とした作業療法実践に必要な基礎知識を学習する「老年期障害作業療法学」での学びを基に、作業療法実践の理解を深め、さらには、将来的発展を担う視座の獲得を目指すものである。
そのため、本演習では事例研究の分析、および、老化の疑似体験を通して、老年期障害を対象とした作業療法評価法と作業療法介入の一連の過程を学習する。
授業は前半の講義による知識の確認と、事例研究の分析、および老化の疑似体験のグループ報告からなる。毎回、授業終了時にコメント・質問等(120字前後)を提出してもらっている。授業の開始時にはそのコメントや質問に答え、学生の理解が不十分と判断したときには、補足説明をしている。学生は自分のコメントに対するフィードバックが得られるため、授業に参加している意識につながっているようであり、コメントの量は増えていく。教員にとっては授業内容の理解度がわかる上、時に厳しい評価も受け、工夫すべき点がわかり、次回の授業に生かす努力へとつながっている。
事例研究の分析は、あらかじめ配布してある20数例の事例の1つを学生が個々に分析し、レジュメを作り順次レポーターとして報告するものである。事例は最近5年間の報告で、整形外科、内科、精神科、神経科などさまざまな疾患であり、また、病院や施設での作業療法アプローチのみならず、在宅での報告もある。そのため、これまで学んだ基礎医学や臨床医学の知識に加え、作業療法の理論、社会学や経済学等の知識も必要となる。学んだ知識を統合し分析する機会となっている。さらに、レポーター学生の報告を聴衆である学生が良かった点、工夫すべき点をあげるという評価をし、報告学生にフィードバックしている。この結果は、後半発表する学生の発表技術の向上となっている。
グループでの高齢者の疑似体験は、4、5名でひとりの高齢者を作るものである。身の回りの物を利用して老化や障害を表現するが、認知症のお年寄りを抱えた家族、老夫婦の昼食、おじいちゃんと孫など、ユニークなパフォーマンスが展開され、学生の発想には驚かされ、楽しいものである。
高齢化の問題は、老年期にあるものだけのものではない。学生にとって他人事ではない自分の問題と捉え、それら問題を大きな視点に立って整理していくことが重要である。整理のためには、老化に関わる基礎医学と臨床医学、および作業療法学との統合が必要にもなる。また、物事を適切に評価すること、問題を発見することが習慣となるよう、日々の生活の中で知的好奇心が刺激されることを望むものである。また、そのような学生の反応が教員としての刺激にもなっている。