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北海道大学総合博物館 2018年夏季企画展「視ることを通して」 企画者の山下俊介助教にインタビュー

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北海道大学総合博物館では、2018年夏季企画展「視ることを通して」を開催しています。本展を企画した、北大総合博物館 助教 山下俊介さんにお話を伺いました。

(「視ることを通して」企画者の北大総合博物館 助教 山下俊介さん)

タグを手掛かりに、「視ること」自体について考える
展示を視ていると、資料と一緒に色付きのブロックが置かれていることに気がつきました。これらは、資料を視る際の視点を示すタグの役割をしているそうです。黄色のタグは「記録」を意味し、濃い青色は「再現」、赤色は「伝えること」など、種類は全部で6種類。「普段は正面から何気なく見ている画像も、少し視点を変えてずらして視てみると、その画像の持つ記録的な要素や、様々な文脈を感じとることができます。表面的な資料も、実はいくつもの層によって成り立っていることを体感して欲しいという思いから、この色付きのアクリルタグを一緒に展示しています。」と山下さん。
デザイナーさんと相談して、タグをブロックで表現する方法にたどり着いたそうです。

(アクリルタグについて説明する山下さん)

(ポスターのデザインをはじめ、エントランスの展示も、アクリルタグをイメージして作られています)

ガラス乾板から読み解く、「年月」という情報
展示室を少し進むと、たくさんのガラス乾板が展示されています。これは北大総合博物館の所蔵品で、研究者たちが残した文献の複写です。「発掘現場などを残した乾板に比べ、文献の複写は元の本が残っていれば問題はないので、あまり価値のないものとして扱われてきました。しかし、実際に研究者や学生が論文や講義に使った、研究としての営み全体がここに残っていると考えると、一概に価値のないものとは言い切れません。」と山下さんは言います。

(様々な文献の複写が展示されています)

アーティストとのコラボレーションで、新たな価値を見出す
今回の展示は、展示室だけに留まりません。関連展示として、アーティストとのコラボレーションによって生み出された作品が博物館に点在しています。例えば、普段は物品庫として使われているスペースも展示場所の一つとして活用されています。ここでは、映像作家の大島慶太郎さんによって、ガラス乾板コレクションを用いて制作された映像作品を上映しています。資料的価値はないけれど、捨てられずに残っていた、大量のガラス乾板。その膜面は剥がれ、ひどく劣化しています。しかし、大島さんは、古びている部分こそが面白いと話したそうです。
「その時の価値だけで判断していたら、これらは確実に捨てられていたと思います。しかし、最近ではデジタル技術が発達したため、めったに使われなくなったガラス乾板は、とっておいたことによって価値を持ち始めているのです。大学の資料は、誰がこれで何を研究していたというように、コンテクスト(背景)が絡みついている場合がほとんどです。それをそのまま記録するのも大切ですが、それだけだと歴史的な資料としてしか使えず、残せなくなってしまうこともあります。その物の表層だけを視る、フィクションを含めるなど、コンテクストを外す活動の一つとして、アーティストさんに作品制作をお願いしました。」と山下さんは語ります。

(物品庫を暗室に見立て、映像作品を壁に投影しています)

アーカイブズ資料を「楽しむ」
北大総合博物館の所蔵品として、北大名誉教授 八木健三さん(1914-2008)のスケッチブックも展示されています。八木さんは、地質学者であり、自然保護活動にも力を注いでいたそうです。八木さんは50年以上に渡り、自身の研究に関すること、観察した自然や野鳥、食べた料理などをスケッチブックに描き続け、その数はおよそ370冊にも上ります。長年描かれてきたスケッチを通して、研究者の視点の変化や広がりを感じることができます。

(八木健三スケッチブックコレクションの一部が展示されています)

また、来館者は、コンピューターに取り込まれた八木さんの作品を、自由に閲覧することができます。山下さんは、「八木先生のスケッチの中から、カラーで描かれているものをデジタル化し、ざっくりカテゴリに分けました。アーカイブズ資料の研究で一番面白いのは、何が入っているか分からない段ボール箱を開けて、そこからその人なりの発見をしていく瞬間だと思います。それを来館者の方にも追体験していただき、新たな発見をしていただけたら嬉しいです。」と話していました。

(カラーのスケッチだけでも1,000点程あるそう)

視ることを通して、残すことの意義を伝える
「今回の展示を通して、標本や学術書籍以外のもの、科学技術資料などを残していくことの意義をアピールできればと思います。また、古い資料と見比べることで、身の回りの画像や映像といったビジュアルイメージの視方を改めて考えていただければ幸いです。」と山下さんは言います。

 

学術資料を、自宅でも楽しむ
企画室を出て、館内のミュージアムショップ「ぽとろ」を覗いてみると、八木健三さんが愛用したものと同じ、マルマン社製リネンスケッチブックや、北大博物館所蔵の掛図をポストカードにしたものなど、「視ることを通して」に関連したグッズが並んでいました。

(水産学教授用掛図コレクションがデザインされたポストカード)

(八木さんが愛用したリネンスケッチブック。サイズは3種類あります)

何でも簡単にデジタルで残すことができ、断捨離や持たない生活が注目される今日。物を残すことの意味や、残すことによって生まれる物の価値について、少し立ち止まって考えてみませんか。

北海道大学総合博物館 2018年夏季企画展「視ることを通して」
大学の教育研究活動の中で、膨大な量の学術資料が収集され、また生み出されてきました。本展では、北海道大学総合博物館と放送大学附属図書館の所蔵コレクションを中心に、近代以降の人類の知の営み、特に学術活動の中で、写真などのビジュアル資料が担ってきた機能や切り拓いてきた局面を鑑賞し、当たり前すぎる存在になったビジュアルメディアの意味を考え直します。

【入場無料】
期間:8月3日(金)~10月28日(日)
場所:北海道大学総合博物館1階 企画展示室および館内
時間:10時~17時(会期中の金曜日は10時~21時)
*10月27日(土)~28日(日)は、21時30分まで開館(カフェ・ショップも22時まで営業)

(文:総務企画部広報課 研究広報担当  菊池優 写真:同担当  川本真奈美、菊池優)

掲載日:2018年10月22日