このたび,9月22日にタイ,バンコックにおいて,本学名誉教授飯塚敏彦氏(元農学研究科教授)に,国際養蚕連盟からルイ・パスツール賞が贈られました。この賞は,「世界の養蚕業の発展に,多大な貢献を果たした」業績によって贈られたものです。
受賞に当たっての同氏の感想,功績等を紹介します。
受賞に当たって
飯 塚 敏 彦(いいづかとしひこ) 氏
このたびの受賞は,北海道大学農学部,農学研究科時代に研究を行った,蚕の細菌病の研究と防除,ならびに殺虫性タンパク質の分子生物学の進歩に貢献したこと,北海道大学教授として留学生を含む多くの学生を指導育成したこと,また,蚕糸業の発展に貢献したこと,国際無脊椎動物病理学会の役員として国際的に果たした役割が大きい,として推薦され受賞したものです。
私の受賞は,現伴戸久徳教授,浅野眞一郎助教授,佐原健助手による研究室員全体の研究のポテンシャルが高かったお陰であり,改めて感謝を申し上げる次第です。
世界の養蚕業は,タイシルク,インドシルク,中国の絹産業,ベトナムシルク等,発展途上国にとっては,未だ重要な産業となっております。国際養蚕連盟は,3年に1度国際会議を開くとともに,ルイ・パスツール賞を選考しておりますが,このたび,私がその栄誉に浴しました。タイ国は,シリキット王妃がタイシルク産業の育成に特に熱心であり,今回の国際学会でも特別にガラ・デナーを設け200余名の参加者がご招待をうけました。
日本の養蚕業は衰退しておりますが,その高い技術で途上国の指導に当たっており,本学会でも製糸を含め多くの発表をしておりました。
21世紀における世界の学問は,分子生物学とその応用に向かっておりますが,フィールドからこそ新しい発見も産まれます。若い研究者へのアドバイスとして,農業の現場,食料生産の現場からシーズを見つける努力を惜しまないことをおすすめいたします。
私は,現在,竃k海道グリーンバイオ研究所取締役研究所長を四方英四郎北大名誉教授から引き継ぎ,稲,小麦等植物バイオの研究の機関車役を承っております。若い研究員のエネルギーをいかに引き出して行くかが私の役目であります。また,10月から一般教育演習「北海道農業の現場から」も始まりました。久しぶりに1年生の若さとぶつかり合っております。
この場を借りて,今回の受賞にご支援を戴いた北大の先輩ならびに学会の先輩に厚く感謝を申し上げます。
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受賞式
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功 績 等
飯塚敏彦氏は,昭和34年3月北海道大学農学部農業生物学科を卒業後,北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻修士課程,同博士課程を修了され,昭和41年4月には,北海道大学農学部農業生物学科蚕学講座助手,59年には助教授,63年には教授に就任されました。平成12年3月に本学を定年退官され,平成14年6月には,(株)北海道グリーンバイオ研究所取締役研究所長に就任されています。
氏は助手として奉職されて以来34年間にわたって蚕を材料とし昆虫病理学,遺伝学,分子生物学等の教育と研究に邁進され,これまで95篇の原著論文,7篇の著書,そして10篇の総説・解説を印刷公表されており,その膨大な研究の多くは蚕の細菌病,殺虫性タンパク質に関するものであります。
氏は,長年の研究生活の初期において,早くも蚕糸学に携わる研究者の注目を集める成果を挙げられました。それは,家蚕幼虫における腸内細菌フローラや家蚕腸内における抗菌作用に関する一連の研究であり,ヒト腸内がグラムマイナス細菌中心であるのに対し蚕腸内がグラム陽性中心であることを明らかにされました。
また,人工飼料によって蚕を飼育すると,この腸球菌が異常増殖して疾病をもたらすこと,そのために飼料中には腸球菌を抑制するために抗生物質としてクロロマイセチン添加が必須であることを示されました。さらに,桑葉を飼料とする蚕では,自ら桑葉由来のポリフェノール等の抗菌性物質を利用して腸球菌を抑制するシステムを有していること,即ち,桑葉中のクロロゲン酸が腸内でアルカリ条件下でカフェイン酸に分解され,キノン態となって腸球菌を抑制する化学反応を明らかにされました。これらの成果は,基礎研究を越えて,蚕の人工飼料の開発に大きく貢献する事になりました。
その後,世界に先駆けて,殺虫性タンパク質の遺伝子解析の研究に移り,多大の研究成果をあげました。
また,氏は,学内の教育研究や教育組織改革等に長年貢献されたのみならず,蚕糸学研究連絡委員会委員(平成6年10月〜平成12年3月),学術審議会専門委員(平成4年2月〜平成6年1月,平成7年1月〜平成9年1月),農林水産技術会議専門委員(平成9年10月〜平成10年3月),農林水産技術会議プロジェクト研究課題の決議に関する外部評価委員(平成10年3月〜平成12年3月)等,国の研究活動の審議・評価等にも携わられ,さらに,学会活動として,日本蚕糸学会理事(平成元年9月〜平成13年5月)ならびに日本蚕糸学雑誌編集理事長(平成8年4月〜平成13年5月)を歴任されました。
このように,34年にわたり蚕糸科学の進歩と蚕糸業の振興に貢献された功績により氏は,昭和58年に日本蚕糸学賞,平成7年に日本農学賞および読売農学賞,平成8年にアメリカ農務省貢献賞,平成13年に蚕糸科学功績賞を受賞されております。
(農学研究科・農学部)
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