5月27日,スラブ研究センターにおいてスラブ研究に関する統一的な世界学会である国際中・東欧研究協議会(International
Council for Central and East European Studies: 略称ICCEES)の理事会メンバーを迎えて,21世紀COEプログラム「スラブ・ユーラシア学の構築」,スラブ研究センター,そして日本ロシア・東欧研究連絡協議会が共催する国際シンポジウム「21世紀スラブ・ユーラシア研究の行方 Where
the Slavic Eurasian Studies are headed in the 21st century?」が開催されました。開催に先立って,理事たちは総長を表敬訪問し,日本におけるスラブ研究,北大の対外交流などについて親しく総長と懇談しました。
今回のシンポジウムにはICCEES理事会構成員10名のうち,以下の9名の方が参加しました。
S.キルシュバウムS. Kirschbaum
ヨーク大,カナダ,スロヴァキア政治・歴史専攻
J.ミラーJ. Millar
ジョージ・ワシントン大,米国,ロシア経済専攻
L.ホームズL.Holmes
メルボルン大,オーストラリア,ロシア政治専攻
J.エルスワースJ.Elsworth
マンチェスター大,英国,ロシア文学専攻
T.ブレーマーT.Bremer
ミュンスター大,独国,ロシア史専攻
G.ミンクG.Mink
ソルボンヌ大,仏国,ロシア・中欧政治専攻
L.ヨンソンL.Jonson
国際関係研究所,スウェーデン,ロシアの対中央アジア政策専攻
W.メランコW.Melanko
フィンランド,ウクライナ及びペテルブルク文献学専攻
木村汎
拓殖大(北大名誉教授),日本,ロシア外交専攻
あと一名の理事はロシアの代表ですが,今回は諸般の事情で参加が叶いませんでした。
さて,本シンポジウムでは,主催者の21世紀COEプログラム「スラブ・ユーラシア学の構築」の研究テーマに沿って,上記の9名がそれぞれの国におけるスラブ研究の現状と問題点,さらには今後の研究への提言を報告しました。主要国における研究の在り方がこのようなシンポジウムの形でまとまって報告され,議論されるということは,ほとんど前例がないことです。今回の会議により社会主義体制崩壊後の各国の研究体制の異同が明瞭になりました。すなわち,ドイツ及び英語圏四か国(英米豪加)と他の四か国ではかなり対称的な事態が生まれているのです。つまりソ連東欧研究を国家戦略としていた前者の国々では,社会主義圏の崩壊とともに研究体制が大幅に縮小し,研究予算問題が深刻化したのに対し,後者では反対にロシア東欧研究が後押しされる(仏),あるいはバルト独立など新たな問題関心が生まれる(ス),ロシアとの長くて特殊な関係が再認識される(フィ)など,体制崩壊はむしろ新規の研究を掘り起こす方向に作用したようです。この点で日本は後者に入り,ウクライナ研究,コーカサス研究,中央アジア研究などで大きな進展が見られるようになっています。もっとも日本人理事の木村汎氏は,英語での発信力が弱いと述べ,日本におけるスラブ研究が抱える年来の問題点を指摘し,今後の改善を訴えました。
共通の関心事として議論が沸騰したのは,この地域全体をめぐる新たな名称設定です。東欧拡大ないし拡大欧州,ユーラシア,スラブ・ユーラシア,東欧及びユーラシア等,様々な案が出されましたが,いずれも分析方法あるいは分析視角の違いと結びついており,「終わりなき議論」となりました。この問題はまさに21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」の中心的なテーマであり,かつ現ICCEES理事会にとっても焦眉の論争点です。またスラブ研究センターの側からは現地研究者と対等な協力関係を作るための具体的な提言を含んだ議論も提示され,予定されていた討論時間はあっという間に過ぎてしまいました。
また今回のシンポジウムには,いま新たにロシアの研究が広がりをみせている韓国から参加者があり,日本統治時代を含めた韓国におけるロシア研究の歴史が紹介されました。スラブ研究センターでは昨年から韓国との研究交流を積極的に進めており,その一環として今回のシンポジウムにも韓国研究者が参加しました。
来年度はICCEESの5年に一度の国際大会がベルリンで開催されます。スラブ研究センター及び21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」としては今回の議論なども踏まえて,ベルリン大会で5つの独自セッションを開催する予定です。ICCEES国際大会でこれだけの数のセッションを日本人研究者が組むのは初めてであり,是非とも成功させるべく,十分な準備を進めていくつもりです。
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