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北海道大学・オークランド大学共同国際シンポジウム開催

 ニュージーランドの基幹大学であるオークランド大学と北海道大学との共同国際シンポジウムが,3月19日(土)(本学学術交流会館),22日(火)(斜里町ゆめホール知床)の両日に開催されました。オークランド大学と北海道大学は,全学レベルの学術交流協定(平成15年)および学生交流協定(平成16年)を結んでおり,今回のシンポジウムはこれらを記念して企画されたものです。これまでの本学と同大との交流の経緯と,シンポジウムの概要について報告します。

オークランド大学との交流の経緯

 オークランド大学と北海道大学との間の学術交流協定は,平成14年に文学部を責任部局として交渉が始まり,全学国際交流委員会および文学部執行部の尽力で平成15年7月に締結に至りました。筆者はその直後に募集された平成15年度大学間協定校交流(派遣)事業により平成15年11月29日から12月14日まで同大へ派遣され,別事業で訪問中の池田透文学研究科助教授と共に理学部および人文学部と学術交流を行いました。
 帰学後,学生交流協定締結を進めていた身崎壽文学研究科長(当時)および瀬名波栄潤文学研究科助教授(学術交流委員)と情報交換を行い,複数分野における学術交流と学生交流の可能性と意義を確証しました。その後,中村研一副学長(国際交流担当)と学術国際部の支援を受けて,平成16年3月に文学部代表(身崎・瀬名波・池田・立澤の4名)としてオークランド大学本部(Christopher Tremewan副学長)を訪問することとなり,学生交流協定の具体的な交渉を行うとともに,記念シンポジウムの青写真を提示するに至りました。
 平成16年度に入ると両大学の交流はより具体化し,シンポジウム招請者の具体的な顔ぶれが決まるとともに内容面の議論が進み,事務職員の研修も実現しました。また学生交流協定も正式に締結し,同協定に基づく本学(文学部)からの留学生第一号が現在渡航準備に入っています。

シンポジウムのテーマと体制

 共同シンポジウムのテーマ設定においては,上記のようなオークランド大学の特徴を反映し,かつ北大が今後負うべき地域における役割が明らかになる分野として,広義の環境科学が選ばれました。この分野については,両大学共に文系理系を問わず多くの研究者を擁しており,日本の大学では本学が全国一の研究者数を誇っています。しかし筆者の印象では,本学はこれだけの人的資源を抱えながら,部署を超えた交流やプロジェクト化が十分でなく,この点でオークランド大学の現状や経験はそのまま北大の糧となることが期待されます。そこでシンポジウムの総合テーマは「北海道:自然環境と人間社会との共生をめざして」という市民にわかりやすいものとして,具体的な題材には,北海道で最もホットな環境問題であり,かつオークランド大学のお家芸とも言える「外来種問題」と「世界遺産問題」を選びました。そしてこれらの議論を通じて,環境問題における総合的取り組みと,そこでの人文社会科学の役割を問うことを企図しました。
北方民族博物館にて熱心に展示物を見学
北方民族博物館にて熱心に展示物を見学
 また本シンポジウムでは,環境問題の解決にあたり不可欠な視点として,専門の壁を越えた総合的取り組みと共に,地域との連携を重視しました。これを具体化するために,札幌だけでなく,外来種管理と世界自然遺産という二つの課題を抱える知床地域での開催を決定しました。知床地域が選ばれたのは,単に世界遺産で注目されているという理由からではなく,環境保全の全国的象徴であり,本学の教員や多くの卒業生が関わっており,そして大学が連携してゆく上で地域における教育・研究の核(カウンターパート)となる施設(知床博物館,知床自然センターなど)が存在するからです。知床は,本学が環境問題の教育・研究において地域連携を進める上で最高のフィールドであり,本シンポジウムの開催は,本学が知床地域と連携してゆくことの表明の意味も持っています。
 このようなテーマ設定に対応できるよう,シンポジウムの運営は全学レベルの実行委員会方式とし,新田孝彦文学研究科長(委員長)と畠山武道前法学研究科長(副委員長)のもとに総勢26名の実行委員会が編成され,事務局は瀬名波・池田・立澤の3名が預かりました。招請者の選定と交渉は基本的に事務局で行いましたが,現地での調整にはChristopher Tremewanオークランド大学副学長,および現地出張されていた小野有五地球環境科学研究科教授にご尽力いただきました。また,文部科学省および環境省のほか,ニュージーランド大使館,日本生態学会など関連3学会,道・札幌市および羅臼・斜里両町など多くの後援をいただきました。
 このように全学的取り組みによる大きなシンポジウムをボトムアップ方式で開催するのは珍しいことですが,それだけでなく予算獲得およびプログラムの面でも今回は新たな試みを行いました。
 予算においては,総長裁量(重点配分経費)および文学研究科長裁量(会議支援費)の経費に加え,全学体制で獲得した文部科学省の競争的資金である現代的教育ニーズ取組支援プログラム(通称現代GP;事務局北方生物圏フィールド科学センター)の支援も受けました。また民間の支援も積極的に募り,環境文化支援で知られる株式会社アレフからは資金のほかにも講演など強力な援助を受け,札幌市の外郭団体である札幌国際プラザ,および札幌弁護士会からも協賛を得ました。これらに加え,北大生協,近畿日本ツーリスト(旅行等)やグラデュースマルチリンガルサービス(同時通訳)などの一般企業,そして知床地域の小売店舗のみなさんなど,多くの方々の運営協力があったことも記すべきでしょう。
 プログラム面では,単に研究者を招請するのではなく,双方の講演者や学生が現場を見て情報共有をはかるため,両セッション(札幌・知床)の前にエクスカーションを実施しました。札幌では,総長と文学研究科長への表敬訪問,藤田正一館長自らの案内による総合博物館見学の後,北海道との協働で本学(当講座)がアライグマ管理プログラムを開発している野幌森林公園を視察しました。また知床では,流氷が接岸する網走から斜里・ウトロまで一泊二日で視察し,流氷観光船上から知床半島とオオワシを観察する機会にも恵まれました。どちらもその地域の研究・教育の拠点となっている施設(北海道開拓記念館,ふれあい交流館,北方民族博物館,知床博物館,知床自然センター,美幌博物館)での研修を含み,講演者にとって事前研修の意味があるだけでなく,学生たちにとってもまたとない地域学習の機会になりました。
シンポジウムの招請者とプログラム
 オークランド大学から各分野を代表する5名を招請しました。
●招へい者
Ralph Cooney教授
(タマキキャンパス担当副学長,物理化学)
Elizabeth Rankin教授
(人文学部美術史学科,遺産教育・博物館学)
Michael Clout教授
(理学部生物科学科・地理環境科学科,外来種研究)
Maj DePoorter博士
(IUCN-ISSGコーディネーター,地域連携プログラム)
Brad Coombes上級講師
(理学部地理環境科学科,環境政策)

●プログラム

3月19日(土) 札幌セッション(テーマ:環境先進国ニュージーランドの経験と北海道の未来)
  司会:小早川 護 国際広報メディア研究科教授
 開会の辞 新田 孝彦 実行委員長
 主催者挨拶 中村 睦男 北海道大学総長
 挨拶 Ralph Cooney オークランド大学副学長
John McArthur 在日ニュージーランド大使(代理)
高橋 はるみ 北海道知事(代理)
庄司 昭夫 株式会社アレフ取締役社長
 基調講演「ニュージーランドにおける侵略的外来種問題」
  Michael Clout オークランド大学教授
 「侵略的外来種管理における人文・社会科学的側面の重要性」
  Maj DePoorter IUCN-ISSGコーディネーター
 「ニュージーランドにおける遺産保護をめぐる争い」
  Brad Coombes オークランド大学上級講師
 「文化遺産保全−ニュージーランドにおける新しい展開−」
  Elizabeth Rankin オークランド大学教授
 「北海道における外来種問題の諸相−アライグマ管理問題を中心に−」
  池田 透(文学研究科助教授)
 「日本・北海道の環境法と環境政策−自然環境行政システムを中心に−」
  畠山 武道(法学研究科教授)
 「住民参加による総合的な環境保全に向けて−ニュージーランドと日本の経験に学ぶ−」
  柿澤 宏昭(農学研究科助教授)
 「企業における環境保全への取り組み」
  菊池 玲奈(株式会社アレフ)
 パネルディスカッション 講演者全員 [コーディネイター:畠山 武道教授]

3月22日(火) 知床セッション(テーマ:人と自然と世界遺産)
  司会:瀬名波 栄潤 文学研究科助教授
 開会の辞 新田 孝彦 実行委員長
 主催者挨拶 中村 睦男 北海道大学総長
 挨拶 Ralph Cooney オークランド大学副学長
John McArthur 在日ニュージーランド大使(代読)
星野 一昭 環境省東北海道地区自然保護事務所長
午来  昌 斜里町長
 基調講演「環境保全の新たな地平−博物館と先住民文化−」
  Elizabeth Rankin オークランド大学教授
 「保護地域の生態系保全における社会参加の重要性」
  Maj DePoorter IUCN-ISSGコーディネーター
 「市民に支持される侵略的外来種対策−ニュージーランドの経験から−」
  Michael Clout オークランド大学教授
 「協働管理は保全実践上の対立を解消できるか?」
  Brad Coombes オークランド大学上級講師
 「知床世界自然遺産候補地の自然環境と歴史」
  中川  元 知床博物館館長(本学OB)
 「知床地域における市民参加型保全活動の可能性」
  宇仁 義和 宇仁自然歴史研究所(本学OB)
 「先住民族のガバナンスと世界遺産−シレトコ世界遺産へのアイヌ民族の参加−」
  小野 有五 地球環境科学研究科教授
 「知床世界自然遺産候補地の適正な管理」
  鳥居 敏男 環境省東北海道地区自然保護事務所次長
 パネルディスカッション 講演者全員・小川  厳 エコネットワーク代表(本学OB)
  [コーディネイター:小野 有五教授]

シンポジウムの内容と成果
熱い議論が繰り広げられた知床でのパネルディスカッション
熱い議論が繰り広げられた知床でのパネルディスカッション
 札幌セッションでは,Clout教授が侵略的外来種による生態系の危機を解説し,DePoorter博士は外来種問題が人間社会のあり方に起因することを説きました。Coombes博士は環境問題への関心が高まる一方で先住民や少数民族の生活が犠牲となることを警告し,Rankin教授は文化的な相互理解がそのような問題を解決する一つの鍵であることを示しました。知床セッションでは,札幌で提起された問題やアイデアがより具体的に語られ,Rankin教授は地域の博物館における展示やデザインの工夫が相互理解を深める例を,DePoorter博士は環境教育的手法を用いた地域社会主体の外来種管理事例を,Clout教授はいわゆるステークホルダー次第で政策を変えざるをえない状況を,そしてCoombes博士は現在試行されているマオリと白人による「協働管理」の事例と可能性を,それぞれ紹介しました。
 なお,今回のシンポジウム運営にあたり,地元から多大な協力を得ました。かつて知床の森の保全運動を率いた午来町長はじめ町三役の方々は議会を一時休会にして町長あいさつを実現してくださり,知床博物館とゆめホール知床(会場)では休館日にご対応いただきました。また,両会場には多くのアイヌ民族の方々がご出席くださり,知床セッション後の懇親会では,素晴らしい歌声と演奏,そして踊りをご披露いただきました。講演や討議の内容だけでなく,このような地元の協力もシンポジウムの成果として認識し,そこに聞こえる本学への期待に応えていかねばなりません。
 最後に,その決意を表明した中村総長のあいさつの一節を紹介して報告を終えます。
「過去の経験を糧とし,未来への勇気ある決断を行ったニュージーランドとオークランド大学の叡智に学び,北海道もまたこの地にふさわしい方策を見いだすことを期待しつつ,『北海道大学は,北海道の自然環境と人間社会の共生をめざす教育研究の拠点となることを自らの使命とする』」
 事務局を最後まで支えてくださった,Christopher Tremewanオークランド大学副学長,本学事務局,現代GP事務局,文学部事務室,実行委員諸氏,そして学生諸氏に深謝します。
*シンポジウムの詳細は下記をご参照ください。
ホームページ(http://www.hokudai.ac.jp/bureau/news/news-top/auckland.html
要旨集(残部あり),プロシーディングス(本年度中発刊予定)

(立澤 史郎[実行委員会事務局・文学研究科地域システム科学講座助手])
serow@reg.let.hokudai.ac.jp
電話&fax: 011-706-3053

札幌セッションを終えて笑顔の参加者と学生スタッフ等
札幌セッションを終えて笑顔の参加者と学生スタッフ等

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