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ダニエル・ポーリー特別講義「世界の水産の現状と将来」

 カナダ国ブリテッシュ・コロンビア大学(UBC)ダニエル・ポーリー教授の特別講義を12月7日(火)に水産学部講義棟大講義室で実施しました。(代表者:水産科学研究院長 嵯峨直恆,主催者:水産科学研究院 教授 帰山雅秀)
 講義の内容は以下のとおりです。

 第2次世界大戦後,特に1960年代には,世界の漁獲量は著しく増加しました。しかし,世界的な乱獲による漁獲量の減少が1970年代よりはじまり,その後その傾向はますます拡大しています。北半球の先進国は,最初に乱獲による漁獲量の減少をもたらした国々ですが,そのような効果を深海へ,そして南方である発展途上国の沿岸,南半球をこえて,はるか南極までもたらしました。21世紀,世界的な漁業の拡大は終了しつつあり,1980年代に最大であった漁獲量は減少の一途を辿っています。
 一方,海洋生態系や生物多様性への巻き添え的な被害は,国の補助金による漁獲努力とともに,増加し続けています。先進国では,いくつかの要因が漁業の危機の深刻さを市民に気づかせないようにしています。それらの要因とは,先進国における発展途上国からの水産物の著しい輸入増加と,養殖が漁獲量の減少の代替になるという誤解をまねく見識です。これらの不具合は今後決定的な影響力を及ぼし,次の10年間にとって悪い前兆:地球温暖化の影響としての熱帯域における潜在漁獲量の減少と高緯度域における広範囲な(漁業の)崩壊につながりますが,現在ではその資源管理の失敗に対する弁解のみが叫ばれています。今後この不具合は,海洋生態系への重大なインパクトとなるであろう。

 講義には函館キャンパスはもとより札幌キャンパスからも多数の学生や教員,市民らが聴講し,熱心なディスカッションが行われました。講義後,UBCと本学との交流促進について話し合いがもたれ,今後,両大学における教育・研究交流を益々盛んに行うことと,世界的な海洋生態系データベースであるFishBaseの充実と拡大を推進することで合意が得られました。
 なお,本セミナーは「サステナビリティ・ウィーク2010」の行事の一環として実施されました。

 
 〈参考〉ダニエル・ポーリー教授の略歴
 1994年から,ブリテッシュ・コロンビア大学水産学センター教授。2003−2008年同センター所長。海洋生態学,生態系モデルおよび漁業資源管理学の世界的権威であり,500篇以上の科学論文や書籍などがある。最近の主なテーマは,フィッシングダウン,漁業と地球温暖化による海洋生態系と水産食資源へのインパクト等。
 現在,米国Sea Around Us Projectの首席研究官,カナダ学士院会員でもある。またアメリカ水産学会(2004),日本財団(2005),ヴォルボ財団,ドイツ生態学会(2007),カタロニア州政府などから数多くの賞を受けている。著名な著作としては,Science (2002), Nature (2003), The New York Times (2003), Le Monde (2009), El Paris (2009)などがある。
 
講義するダニエル・ポーリー教授 多くの参加者で埋まった会場
講義するダニエル・ポーリー教授 多くの参加者で埋まった会場
 
(水産科学院・水産科学研究院・水産学部)
 

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