北方生物圏フィールド科学センターでは,8月8日(月)から12日(金)までの4泊5日の日程で「野外シンポジウム2011〜森をしらべる〜」を開催しました。野外シンポジウムは,本センターが管理する広大な森林や渓流,湖沼,湿原などを巡りながら,森林研究の方法や成果を現場で紹介し,野外調査の一端を体験しながら,何がどこまで解明されたのか,そしてこれから何を明らかにする必要があるかについて考える場です。
14回目となる今年の野外シンポジウムは,北海道北部の雨龍研究林の森を舞台に開催しました。シンポジウムには北大生を含む全国各地の国公私立14大学から森林研究に興味を持つ学部学生18名が集まり,研究林スタッフと共同研究を進めている学外研究者を含む教員や大学院生たちから森林研究の最新の成果や研究の進め方について学びました。最高気温が連日30度を超える北海道らしからぬ猛暑が続き,そのせいか大量に発生したアブが舞い狂う中でのフィールドワークとなりました。
各プログラムは日中に現場で行うフィールドセッションと,詳しい解説や質疑応答を中心とした夕食後の室内でのポスターセッションの2段構成になっています。「葉っぱの量はどうすればわかる?〜木登りでわかる木のかたちの秘密〜」,「食うために,食われぬために〜オタマジャクシの生き残り術〜」,「森林の百年先は予測できるか?〜長期観察でわかること,わからないこと〜」など,印象的なタイトルをつけた12のテーマ別セッションが用意され,学生たちは研究現場の環境やデータの質感を確かめながら,初めてのフィールドワークに果敢に取り組みました。
野外でのセッションでは,真っ暗闇の森や川の中を歩いたり,ザイルで安全を確保しながら恐る恐る木に登って幹の太さを計測したり,伐倒した樹木の葉っぱの食害度やクロロフィルの測定,重機で引き抜いた樹木の根系を消防ホースを使って洗いながらの菌類観察,胴長を着用して池に入っての両生類の捕獲調査,ササを土壌ごと剥ぎ取る施業の観察とブルドーザの試乗体験など,北大研究林ならではのダイナミックな野外調査を存分に楽しみました。夜のポスターセッションでは,現場で経験した共有の感覚をベースに掘り下げた議論を行いました。時間を惜しむように活発な質疑応答が繰り広げられ,研究の楽しさや難しさのほか,研究者たちの苦労話や試行錯誤の裏話などを聞く良い機会となり,毎日夜遅くまで楽しい交流の時間が続きました。この他にも,早朝の森へ出かけて野鳥やネズミを観察するなど盛りだくさんのメニューが用意され,雄大な自然を対象とした野外研究の楽しさを満喫しました。
全てのセッション終了後に行われた参加学生による模擬セッションは,北大らしくアンビシャスセッションと銘打ち,研究者になったつもりでテーマを考え,実験結果までを予想して発表しました。学生たちの中でふくらんだ「森林研究」への思いが伝わるユニークで楽しい発表会となりました。最終日のエクスカーションでは地元幌加内町の研修施設で生産量日本一を誇る名物のソバ打ちに挑戦しました。できあがったソバは太さも長さも不ぞろいでしたが,打ちたてのソバの素朴な香りと味を堪能しました。
参加した学生たちは「木登りセッションが面白かった」,「現地で話が聞けて,その場で調査を体験できるのでよく理解できた」,「昼間は体を使った体験型,夜は頭を使った思考型のスタイルはすごく良かった」,「大学の先生や先輩たちとこんなに意見を言い合うことは初めてで楽しかった」,「質問にとても丁寧に答えてもらえて満足した」など,新鮮で濃密な5日間の感想を語ってくれました。森林研究の面白さを満喫した参加者の中から,大学院に進学して新しい研究テーマに取り組む学生が現れることを願いながら,今年の野外シンポジウムを終えました。
本事業は(社)国土緑化推進機構「緑と水の森林基金」の助成を受けました。事業の概要は本センター森林圏ステーションのホームページに掲載されています。
http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~yagai/
 光学機器を使って樹木の葉の形質を 測り,データの質感を確かめる。
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測定値をその場でグラフに表示して 議論する。 |
ザイルで安全を確保しながら, 一本ハシゴで木登りに挑戦。 |
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菌根調査では,重機で引き抜いた樹木の 根系を消防ホースで洗浄。北大研究林 ならではのダイナミックな調査体験。 |
湿地に生える樹齢200年以上の アカエゾマツの年輪調査。 |
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トラップに捕捉された昆虫の種類判定。 思った以上に難しい。 |
現場の感覚を共有した上で, 詳しい研究成果を聞く。 連日夜遅くまで熱い議論が続いた。 |
(北方生物圏フィールド科学センター)
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