部局ニュース

スラブ研究センターがグローバルCOEプログラム
「境界研究の拠点形成」による稚内・サハリンセミナーを開催

 北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」と,笹川平和財団研究助成「境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)」の主催による稚内・サハリンセミナーを,“これからの日本とロシアの「境界交流」について考えます”というキャッチフレーズを掲げ,8月26日(日)に稚内で,28日(火)にはロシア・サハリン州ユジノサハリンスク市で開催しました。
 このセミナーは実務者と研究者の意見交換の場として,日本の各境界地域の現状と課題について,現地から現地の視点で話し合うというコンセプトがあり,既に与那国,対馬,台湾において開催の実績があります。実務者と研究者が立場を超えて連携することで,境界地域を活性化するための様々なアイデアやプランが生み出されることが期待されています。今回は稚内のみならず,参加者一同がフェリーで宗谷海峡を渡り,対岸のサハリンでもセミナーを開くという意欲的な試みがなされました。
 26日(日)の稚内セミナーは,第1部「海の境界をめぐる現状と課題」,第2部「稚内から学ぶ境界交流」と題して,新築された稚内の複合施設T・ジョイ稚内で開催しました。冒頭に外間守吉与那国町長と工藤 広稚内市長による挨拶の後,山田吉彦氏(東海大学)から尖閣諸島をめぐる外交政策についてタイムリーな現状報告があり,自治体の石田和彦氏(小笠原村)・高田俊成氏(竹富町)・久保 実氏(五島市)・西谷榮治氏(利尻町)からの各報告も山田報告にうまく関連付けた形でなされたため,白熱した質疑応答が行われました。
 第2部では佐藤秀志氏(稚内市)・今村光壹氏(稚内商工会議所副会頭)・外間氏(与那国町長)・伊賀敏治氏(対馬市)・加峯隆義氏(九州経済調査協会)からの報告が行われ,南北の境界地域における交流の形を各自治体がそれぞれの課題を抱えつつ模索している現状が詳らかに説明されました。
 27日(月)はフェリーでの移動になりました。これはかつて稚泊連絡航路と呼ばれた北方経営の大動脈と全く同じルートです。偶然ながら,今回のスケジュールは旧島民による墓参団「平和の船」と一緒になり,宗谷海峡の洋上では彼らの主催による慰霊祭が挙行されていました。5時間半という短い船旅ではありましたが,一同も海峡で散華した犠牲者に祈りを捧げ,日ソ・日ロ関係に翻弄されてきた海峡の歴史に思いを馳せることになりました。
 28日(火)にはユジノサハリンスク市のメガパレスホテル屋上ホールでサハリンセミナーを開催しました。セミナーは第1部「北海道とサハリンとの交流の現状と課題」,第2部「周辺地域における交流と取組」という2部構成で実施されました。
 第1部では,日本側から外間氏(与那国町長),サハリン側からドミトリー・ハン氏(サハリン州行政府)の挨拶があったほか,セルゲイ・ペルヴヒン氏(国立サハリン総合大学)が観光ビジネスとしての日ロ交流の現状と課題を報告し,サハリン稚内クラブの会員諸氏が,稚内とサハリン州で続けられている草の根交流の成果を論じました。日本側の参加者も,今村氏(稚内商工会議所副会頭)・渡辺公仁人氏(稚内サハリン事務所)・對馬雅弘氏(みちのくカンパニーリミテッド)などが,サハリンとの交流が有する将来性を語りました。
 第2部では,財部能成氏(対馬市長)・木村 崇氏(京都大学名誉教授)などが,対馬やボロジノ島(大東島)での日ロ関係史の知られざる側面を語り,サハリン側の強い関心を喚起していました。
 初秋のサハリンとは思えないほどの陽光が天窓から降り注ぐ中で,参加者は汗だくになりながらも各報告に聞き入っていました。また,大島 剛氏(有限会社ルテニア)による際だった同時通訳が,参加者の相互理解を大いに深めていたことも特筆すべき点です。
 29日(水)・30日(木)にはコルサコフとホルムスクの巡見も行われ,サハリンプロジェクトのLNG(液化天然ガス)コンビナート*や廃墟と化したホルムスクの製紙工場の施設群など,サハリンの歴史と現状をつぶさに見て回る機会もありました。なお,今回のセミナー開催にあたって,稚内市と稚内商工会議所にご尽力を賜りました。

*LNGコンビナート
 サハリン北部で採掘した天然ガスを液化して日本などへ搬出するための工場と積出港

稚内セミナーの様子

稚内セミナーの様子

サハリン総合大学 セルゲイ・ペルヴヒン氏の報告

サハリン総合大学 セルゲイ・ペルヴヒン氏の報告

コルサコフのフェリーターミナル風景

コルサコフのフェリーターミナル風景

(スラブ研究センター)

前のページへ 目次へ 次のページへ