訃報 名誉教授 狩野 陽(かのう みなみ) 氏 (享年86歳)
訃報

名誉教授 狩野 陽 (かのう みなみ) 氏 (享年86歳)

 名誉教授 狩野 陽氏は,平成25年11月8日,享年86歳でご逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和2年5月19日北海道に生まれ,昭和26年3月北海道大学文学部哲学科を卒業し,北海道大学文学部大学院,東京大学文学部大学院を経て,昭和31年11月に北海道大学教育学部講師に採用されました。昭和41年11月には同助教授,同46年2月には同教授に昇任し,教育学科特殊教育講座を担当されました。この間,昭和47年1月から同49年8月,昭和52年9月から同56年8月,昭和58年6月から同62年5月までの10年余に北海道大学評議員を,昭和52年9月から同56年8月まで北海道大学教育学部長,北海道大学大学院教育学研究科長を務められました。大学運営の枢機に参画されるとともに,同氏が教育学部長として在任されていた昭和53年4月には,教育学部に附属乳幼児発達臨床センターを全国で初めて設置するなど,学部及び大学院の運営・整備充実に尽力されました。平成3年3月停年により北海道大学を退職され,同年4月より札幌学院大学教授に就任されました。平成7年4月から同10年3月まで同大学社会情報学部長を務められ,さらに平成10年4月から同16年3月までは同大学学長を務められ,管理運営に尽力されました。両大学に於ける長年の貢献により,平成3年に北海道大学名誉教授,平成16年には札幌学院大学名誉教授の称号を授与されています。学外にあっては,北海道心理学会長,日本教育心理学会編集委員及び,日本教育学会,日本生理心理学会大会長等を歴任され,学会の運営と学術の発展に尽力されました。
 同氏は,臨床心理学を客観の学として擁立することに意を注がれ,ひとの心理的適応のありさま,特に対象とこころの関わりの強さを,視知覚系の働きを通して分析する方法論を立て,その指標として脳波を導入し,基礎実験を実施して貴重な知見の数々を明らかにされました。また脳波分析から発展した誘発電位技法を国内でいち早く導入し,生理心理学的研究を進展させました。特に慣れの進展を,学習の進行を示す心理・生物学的過程であると位置づけ,脳波・誘発電位を指標としてこの過程と心理臨床の治癒における機序の有機的関係の解明に努められました。これらの成果は関係者から高く評価され,臨床心理学の基礎となる局面を確かなかたちで築きあげることに貢献されました。
 さらに,臨床に携わる人々を育てることにも意を注がれました。北海道大学教育学部特殊教育講座において,40年余に亘り,臨床心理学の奥義を講じ有為の人材を育てられ,臨床現場をめざす若き学徒らに対し,ひとの心に対する止みがたき思いを学問によって止揚しつつ関わることについて論じられました。そして治療法の訓練に留まらず,治療者自らの治療態度を吟味し,従来の技法にとらわれない臨床的人間関係を保全することを求められました。教授はひとりひとりの良さを丁寧に認め,学生らはその中で古典に学び論じあうことの意義を感得しました。現在,その多くが北海道内外の大学や,諸学校,行政機関,医療機関,福祉施設などで,中心的存在となって活躍しています。
 ここに,謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(教育学院・教育学研究院・教育学部)

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